第101話 バイトが終わって
バイトが終わって、家でメールを確認する。バイト中に彩さんから数件のメールが入っていたみたいだ。
みんな色々考えているみたいだ。俺が一番懸念していたみんなで一緒に異世界で行動できるかということは、身代わりを使ってクリアーするみたいだ。後はどう戻ってくるかだが、麗さんが何か考えてくれるようだ。麗さんならきっと何かいい物を持っていそうでこれも何とかなるだろう。
後は、俺は体調を整えて、ベネトナッシュをこの身に降ろすだけだ。そんなことを決心していると、またメールが彩さんから届いた。
「明日はバットケースを忘れないこと。服装はヤンキーファッションで」ってこれはなんだ。
まあ、バットケースは虎杖丸を入れるカモフラージュだろう。それよりヤンキーファッションだ。あの近藤みたいな恰好をするわけ? いや、カッコいいとは思うけど……。
しかし、俺は言葉とは裏腹にタンスを引っ掻き回してあるアロハを探していた。
翌朝、いつものように昼頃まで惰眠をむさぼり、前期試験の試験勉強をダラダラとして、五時前にバイトに出掛けた。そして留萌さんと昨日の話をレジの空いてる時間にボソボソと話しをする。
「留萌さん。今日の準備って出来てます?」
「うん。バイトが終わった後、麗さんの神社に行って準備をするの」
「それで、ヤンキーファッションって?」
「……それは見てのお楽しみね。ほんとは誰にも見られたくないけど……」
ため息を吐きそうな返事が返って来た。
「そうそう、今日は美優さんも合流して店に行ったのよ。あんな服を売っている店って在るのね」
「まあ、在りますよね。ここファッション圏でいったら関西圏ですから」
そこまで言って俺は気が付いた。
「留萌さん、ひょっとしてアニマル柄ですか?」
そういった時の留萌さんの反応はすごかった。まるでリアクション芸人だ。
「いやー!! 聞かないで!!」
そう叫んで、座り込んだかと思うと、肩で息をしているのだ。慰めにはならないと思うけど俺は顔を伏せている留萌さんに話しかけた。
「あれって、美人が着るとカッコいいですから」
それでも俺の声に答えず、留萌さんは首を横に振っていた。しかし、お客がくると、すくっと立ち上がりいつもの笑顔で接客を始めるのだ。さすがプロだ。俺はその変わり身の早さに脱帽する。
そんなこんなでバイトの終わるころ、鈴木部長や彩さん、麗さんそして美優がデイリマートにやってきた。他のみんなは普段と同じ恰好なのに、鈴木部長はすでに戦闘服を纏っている。
太めのズボンに開襟シャツ、いつものようにズボンの中にシャツは入れていない。そしてサングラス。ただし髪型は七三分け。どこかの国のSPとも言えなくもないが、いかんせんのっぺりとした顔立ちの部長では、お笑いタレントにしか見えず、どこを突っ込んでいいのか分からない。そんな部長をしり目に留萌さんは彩さんたちに連れられて行く。
「瑠衣ちゃん、準備しにいくよ」
「あっ、はい。それじゃあ沢村君また後で」
「みなさん。気を付けて」
俺は、彩さんにがっちりガードされ、引き摺られるように連行される留萌さんを見送った。美優も災難なことだと考えていると、美優は俺の方をみてニャっとしている。あの期待に満ちた顔。美優は内心では喜んでいるのかも知れない。何しろ女性はいつも変身願望を抱えているものらしい。
俺も準備をすべく、バイクに跨り一旦家に帰るのだった。
そして、俺もヤンキーファッションに着替えて駅に出掛けて行く。俺の恰好を見たお袋が声を掛けて来た。
「錬、なにその恰好。まさか悪い友達ができたんじゃないでしょうね。もともとあんた野球をしてなかったら只の不良なんだから!!」
野球部の成れの果てを見て来たような発言をされてしまった。お袋に見られた姿は、濃い紫の地に波のような模様がすそに入り、背中に般若のプリントが描かれたアロハシャツに色落ちして膝のところが破けているダメージジーンズ。鬼退治に行くんだからファッションは般若かなと思っただけなんだけど……。まあ、お袋の発言は無視して出かけようとする。
「今から出かけてくる。今日は帰らないから」
「こら、錬、あんたちょっとここに正座しなさい」
「悪い。もう時間がないんだ」
お袋を振り払ってバイクのエンジンを掛ける。お袋が焦るぐらいだからまあまあ不良には見えるか。駅に行く途中お巡りさんに見つからないようにいかなくちゃ。職質でもされると面倒だ。俺は派出所がある大通りを避け裏道をバイクで走る。突然、雲で月が隠れて空が暗くなり、大粒の雨がヘルメットのシールドに当たりだした。天気予報が当たった。それとも、ミノタウロスが生け贄を求めているのか? 俺は本降りになる前に駅に着くようにさらにバイクのスピードを上げた。
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