第102話 駅駐車場に着くと

 駅駐車場に着くと、約束の時間より早いが鈴木部長の車はすでに駐車場に止めてあった。そして、東口の入り口には目立つ集団が……。な、なんだよ、あの集団は?!

 そこには、シアン、イエロー、マジェスタ、グレーの原色のロング甚平に身を包んだ美優、彩さん、留萌さん、麗さんがいる。そして背中には乙女会と文字が書かれている。いやアニマル柄よりこれは恥ずかしい。まさに印刷機に使う原色、髪にもそれぞれメッシュが入って盛っている。化粧も派手なクマ取りに真っ赤な口紅、みんな派手な顔立ちため絶望的に似合っているのだ。癖にならなきゃいいんだけど……。

 俺が駐車場から東口に歩いて行くのが見えたんだろう。美優が手を振って呼び掛けてくる。

「錬、こっちこっち」

「ああっ、すぐに分かった」

 俺は苦笑いをしながら、みんなに近づいていく。大きく開いた胸元からは胸に巻かれたサラシが目に入った。レディースだ。まごうことなくレディースだ。まあこのサラシにはきっと麗さんが何か仕込んでいるに違いないが……。

「錬君、やっは本職は違うわ。グラサンが必要ないぐらい目つきが悪いわ」

 誰が本職じゃ、誰が? 彩さんが俺の恰好を見ながら感想を言ってくるが、その感想は誉め言葉になっていない。

「ちゃっス!!」

「あれ、近藤じゃないか?」

「そうっス。さっき、この方たちに会いまして、俺たちも雨が降ってきそうだから地下に潜るかってここに来たんス」

「そうそう、チーマ新選組の人たちも、この格好誉めてくれたんよ。どこからどう見ても不良やて」

 彩さんはすっかり近藤たちとなじんでいる。この人はこいつらに違和感なく溶け込んでいる。それに比べ、美優や留萌さんは場違いな雰囲気に戸惑っているようだ。うん、麗さんはマイペースだな。あとは沢口さんか……。そんな噂をしていると、駅前ロータリーに大学病院の名前が入った車が入って来た。沢口さんは病院の車を私物化しているらしい。いやこの人なら急いでいるといって救急車も私物化しそうだ。

 そして、車から降りた沢口さんは、ハーフブーツに黒のレザーパンツ。鋲が撃ち込まれた袖なしのレザージャケット、大きく開いた胸元にはやっぱりサラシが巻いてあった。この人は不良を通り越して世紀末だ。髪の毛は金髪に染めているし、無国籍キャラだ。

 そんな恰好をした沢口さんが俺の方を見て声を掛けて来た。

「すまない。少し遅れた。……それにしても……、沢村君にはかなわないな」

「そうっス。俺らでも沢村さんの格好にはビビるっス」

 失礼な物言いが聞こえたようだが、そんなことを無視して話をさっさと進める。雨と雷が激しくなってきた。時間も押し迫ってきているのだ。

「近藤、お前らのグループで地下通路を封鎖してもらっていいか? 他人を巻き込みたくないんだ」

「どうしたんです、急に? 何やろうとしてるんスか?」

「それは俺たちが後で説明するよ。時間が無くなってきているから」

 奇抜なファッションで固めている集団の中、いたって普通の恰好をしている男たちが俺と近藤の会話に口を挟んできた。

「「ああーん!!」」

 俺と近藤は同時に威嚇しそちらの方を向いた。怯えた顔の山岡さんと大杉が目に入ってくる。こんな格好をしていると俺まで荒ぶってしまう。これは決して地ではない、はず?

「すみません。山岡さん。それにしても今日は山岡さんたちも参加するんですか?」

 俺は生け贄を欲しているのは、男二人と女五人のはず? 計算が合わないと首を傾けた。

「沢村、俺たちは留守番だよ。麗さんに頼まれていることがあるんだ」

「あっ、そうなんですか。よろしくお願いします」

 俺は取って付けたように敬語で返事する。きっと山岡さんや大杉は魔法の糸の端を持って俺たちが帰ってくるのを待つ係なんだ。本当は神話のようにアリアドネのような絶世の美女が待っててれくれるのが希望なんだが、贅沢は言ってられない。詳しい話を知っている心霊スポット研究会のメンバーで残っているのは山岡と大杉だけなんだ。

「そろそろ配置に就こう。もうすぐ三本の列車の発着が同時に起こる〇時になるぞ」

「「「はい」」」気持ちが高揚する俺たちの返事とは裏腹に「まあ、何も起こらないけどね」と沢口さんだけが覚めた感じで言葉を吐いた。鈴木部長と沢口さん、どちらが正しいかはすぐに判明する。地下通路へと続く階段をドキドキしながら降りていけば、地下商店街のほとんどの店の明かりは消えて、後は天井に張り付く無骨な蛍光灯だけの明かりだけになり、肝試しの雰囲気は益々盛り上がってくるのだ。


 地下通路への入り口には何人かがたむろしていたが、俺たちの恰好をみるとそそくさとどっかに行ってしまった。近藤が何人かの仲間に支持を出し、四、五人が地下通路に入って行く。そして山岡さんと大杉を残して俺たちもその後に続くのだ。

 その時、山岡さんに麗さんが糸の切れ端を待たせた。

「絶対に離さないように」

「ああっ、気を付けてな」

 麗さんと山岡さんとの短いやり取りの間、チーマ新撰組の連中は、通路内にいる連中に言葉を掛け追い出しながら、さらに西口の方に向かっている。俺たちは地下通路の一番底、ちょうど真ん中ぐらいに陣取ったのだ。

「鈴木部長、どうですかね? 異世界の入り口は開きますかね?」

「さあ、どうだろう? 条件さえ整えばあるいは……」

「何よ。その自信なさげな発言は! 私は期待してきたんだからね。責任取ってよ」

 鈴木部長の言葉に沢口さんは声を荒げる。あんた、さっき何も起こらないって言ってなかったか。やっぱり、少しは期待しているのか?

「まあ、まあ、あと三分ほど待てば分かるんやから」

 彩さんの言葉に俺も時計を見る。さて、ぼちぼちか。ここに居る全員に緊張が走る。無言のまま時間だけが過ぎていく。俺はすでにオーラを纏い、いつでもそのオーラでみんなを包み込めるようにオーラの領域を広げられるように準備をしている。これは事前に麗さんから指示されていたことだ。ちゃんと七人いるように、異世界に誘(いざな)う得体の知れないものに認識してもらわなければならないし、異世界に迷い込んだ瞬間に、俺のオーラで一人の人間だと誤魔化さなければならない。麗さん曰くこのタイミングが難しいとのことだ。

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