第97話 次の日、早速鈴木部長から招集メールが

 次の日、早速鈴木部長から招集メールが届いた。空いている時間についての相談だが、この心霊スポット研究会の会合に留萌さんや沢口さんも出てほしいと言っている。関係者でない二人を呼び出すところは、まだ推測に足りないピースがあるのか? それとも単に留萌さんに会いたいだけ、沢口さんあたりとは知恵比べをしたいだけなのか……。俺は美優に沢口さんに都合を聞いてもらうようにお願いし、留萌さんにはバイトの時に話してみた。

「……というわけなんです。留萌さんって会合に出る気あります?」

「へえ、あの部長さんがねえー。でも私と沢村君って同じ日に休みってないでしょ」

 留萌さんに言われて気が付いたが、九月のバイトのシフトは留萌さんが居ないことを前提に組まれている。必然夜間に入る俺は、ほぼフル出勤、俺の休日を埋めるように後から留萌さんがシフトに入っているのだ。

 さてどうするか? 幸い無理やり入れたことに対する罪悪感が店長にもあるのだろう。昼間の人や店長が延長して八時まで残って、本当に人数が少なくなる八時以降に入るシフトが何日かある。その日のうちの何日かで留萌さんの都合といい日を選んでもらって、候補日を決めた。

 美優からも、沢口さんの都合の良い日の連絡があり、五日後の五時から「居酒屋勝ちゃん」で心霊スポット研究会の例会が行われることになった。


 そして例会の当日、「居酒屋勝ちゃん」に集まった心霊スポット研究会の面々に加えて留萌さんと大学病院の法医学教室の沢口さんがお互いに自己紹介を済ませたところで、鈴木部長はいきなり爆弾を投下した。

「さて、心霊スポット研究会のメンバーは別として、留萌さんや沢口さんは、キサラギ駅の怪をご存じだろうか?」

「キサラギ駅? 名前だけは噂で聞いたことがあるような?」

 部長のいきなりの爆弾に、いぶかしがりながら沢口さんは答えた。それに返す部長。

「だったら概略だけ、キサラギ駅って言うのはインターネットコミュニティで都市伝説として語られている架空の鉄道駅なんだ」


 いきなり列車事故から離れてしまっているが、この言い回しは鈴木部長節全開の言い回しだ。ここから今この町で起こっている列車事故に見せかけた連続殺人にどう繋がっていくのかだが……。俺たちはチャチャを入れず部長の話に耳を傾ける。俺は今日はこの後バイトが入っているんで酒が飲めないため、どこまで部長の与太話を冷静に聞けるか自信がないんだが。

 まず、部長の話したキサラギ駅の概略だが、インターネット掲示板に投稿された実況形式の恐怖体験談の舞台として登場したもので、人里離れた沿線に忽然と現れた謎の無人駅として登場したものらしい。

 ある時Aさんという人が、電車がいっこうに止まらないことに気が付き、間違った電車に乗ったと思って、初めて止まった駅に降りてみるとそこはキサラギ駅という駅だった。それから、Aさんは、色々と不可思議な出来事に会い最後はスレが途切れて無事かどうかという不気味な終わり方で終わっているという話だ。また、同じような話がその後、ネット上を賑わしていたらしい。

「とまあ、このことから良く推察されるのが、このAさんは異世界に迷い込んだという話なんだ」

「なるほどね。今回殺された七人は異世界に行ったというのね。馬鹿馬鹿しい」

 部長の話を沢口さんは一刀両断で切り捨てる。でも、この話はまだ終わっていない。鈴木部長が只の都市伝説をそのまま語る訳がない。ここから科学的かつ部長の独断的な考察が始まるのだ。

「沢口さん。僕の話はまだ終わってないよ。異世界に行ったというのは正しいんだけど。まず、これらの話、僕はほとんど釣りだと思っているんだ。それが証拠にこのスレには写真が貼っていない。この手の話は画像を貼ると信ぴょう性が増して盛り上がるというのに。

それに最初の数スレはコテ(固定ハンドルネーム)なしで書き込まれているんだ。釣りとも真実とも断定することはできないけれども、本人が成りすまして、たくさんの人が書き込んでいるように見せているだけかも知れない。でもそれを見た人の中には自分の実体験の情報を流している場合もある。

僕はこの情報の中に1%の真実が紛れ込んでいるといつも考えているんだ。

 今回の真実は、全員駅であるということ、しかも全国各地の駅だ。このことから僕は駅には異世界に通じる何かがあると考えたんだ」

「駅そのものに異世界に通じる何かがある?」

 麗さんが部長の話を反芻する。

「ああっ、麗さんが言っただろう。空間が不安定。でもことが起きた後その不安定さが消えている。じゃあ、不安定になった原因は何だったんだ?」

「いや、俺だってその場に居たけど、特に怪しいことは起こってないはず……」

「沢村君、物体に働く力が四つあるのは物理学を習ったやつなら知っているよな」

 いや、実はその辺のことはよく知らない。元々文系だし……。そこで美優が話の輪に入ってくるので助かった。

「だから、空間を歪めるような力って重力でしょ。ブラックホールの周りの空間って実際に歪んでいるらしいし」

 あっ、それなら聞いたことがある。確か相対性理論だったはずだ。鈴木部長も頷きながら話を繋げた。

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