第98話 四つの力とは重力以外に
「四つの力とは重力以外に、物質の性質を変える小さな力と物質を安定させる大きな力、そして今回空間を曲げたと思われる電磁気力だ」
「電磁気力? いやいやそんな物騒な力なんてなかったと思う。俺も感電しなかったし」
「いや、沢村君、すでにそこで起こっていたんだよ。列車が同時に三台走るという……」
「いや、駅に列車が来るのは当たり前……?!」
「気が付いたかい。だからこそ異世界の入り口は駅にできやすいんだよ。分杭峠って知っているかい? 長野県伊那市と下伊那郡大鹿村との境界に位置する峠なんだけど、日本最大の巨大断層の中央構造線の真上に合って、二つの地層がぶつかり合っているという理由でエネルギーが凝縮しているゼロ地場のパワースポットとして知られているんだ。そこでは色々と不可思議なことが起こるようなんだ。
もっとも、地震が発生していないと力学的には周囲の岩盤と同じという指摘もあるんだが……。まあ、断層で岩盤が押し合っているという考えは地球物理学では否定されているから本当に強力な磁場が発生しているかは分からないんだ」
「それやったら!」
彩さんが何か言おうとして、その後言えなくなってしまった。いや俺自身や俺以外も気が付いたからだ。
「列車が通る時、その地盤は振動する。さらに列車が三台同時にその地盤を通るということは、複雑な波形の微振動が起こっていたんだ。それに調べてみたら、あの駅の地盤は磁気を含んだ花崗岩の地層だった。そういったことであのトンネルでは磁力が共鳴し合っていたと云える。磁力は人間の脳に色々な影響を与えるからね。幻聴や幻覚を見せたり、心霊現象の一部はこれが原因だという専門家もいるよ」
「「「「……」」」」
全員が鈴木部長の話に押し黙っている。
「そして、その磁場に強力な電流と電圧が流れる。ちょうどその時間に携帯電話の中継基地に雷が落ちたんだろ。そしてそれらのエネルギーは避雷針を通って地中の岩盤に流れこみ、地下道はあたかも、強力な電磁場の通路と化した。その瞬間、異世界の扉が開いたんだ!!」
「「そ、そんなばかな!!!!」」
俺が叫ぼうとして、先に留萌さんと沢口さんが同時に叫んでいた。くそ、今回も先を越されてしまったか! そんなことはお構い無しに部長は話を続ける。
「ばかなって、実際にアメリカでは実験が行われていて、異世界に行くことに成功している」
「実現しているだって! なにを根拠に?」
俺は他に先駆けて部長を批判する。アメリカがそんな実験をしていたなんてありえない。
「フィラデルフィア計画、沢村君は知らないか? エジソン以上の天才科学者二コラ テスラが設立したプロジェクトの一つだぞ。一九三一年、当時テスラは、レーダーは船体が発する特徴ある磁気に反応するシステムと考えていたんだ。だから、テスラコイル(高周波・高電圧を発生させる変圧器)で船体の磁気を消滅させればレーダーに映らないと考えていたんだ。
実際、一九四三年にフィラデルフィアの海上に浮かぶ「エルドリッジ」を使って実験を行った。それで、船内の電気実験機のスイッチを入れると強力な磁場が発生し、想定どおりエルドリッジはレーダーから消えた。しかしそれだけではなかったんだ。
実験開始とともに海上から緑の光が噴き出し、エルドリッジが浮き上がり発光体が幾重にも包み目の前から姿を消してしまった。そしてその直後、二五〇〇キロ以上離れたノーフォークにまで瞬間移動し、数分後、光に包まれ元の場所に戻って来たんだ。
そのエルドリッジの船内はさらにひどいことになっていた。体が突然燃え上がったとか、凍り付いていたとか。半身だけ透明になったとか体が物体にのめり込んだとか。行方不明者や死者は一四人、発狂者も六人を数えたらしい。似ているだろう今回の連続殺人事件に……。もちろん、異世界とこの世界に同じ時間が流れていないことが前提だけど……。
どうだい、これこそ異世界に迷い込んだ証にならないだろうか?」
「確かに、今までの七人の検死結果は、おそらく死亡時刻はほぼ一緒。それも行方不明になった日に死んでいると思われるわ。最後の凍死なんて、凍傷は真皮に達する深度Ⅲ生きながら全身壊疽(えそ)を起こしているわ。そして解剖の結果、胃には食べたばかりのハンバーガーが未消化のまま残っていた。そして、ポケットには駅前のハンバガーショップで買った時のレシートが残っていた。この結果から推測できるのは、いきなり生きたまま冷凍庫に放り込まれ、瞬間冷凍されて死んだってことね」
これと似た話を訊いたことがある。シベリアの永久凍土で発見されたマンモスの胃の中には、まだ消化されずに残っていた亜熱帯地方の植物が有ったそうだ。この場合は急激なポールシフトがあったと一応説明されてるが、それでも一瞬で世界が凍り付く説明としては弱いと思う。
「沢口さんの発言でも分かる通り、こんな殺人方法は異世界でないと成り立たないと思う」
「じゃあ、目的は? 美優はこの世に地獄を見せるためって言ったけど」
「うーん。僕の見解は少し違う。確かに彼らは地獄のような異世界に迷い込んだんだろうけど」
「地獄のような場所?」
「そうなんだ。もし仮に地獄だとしたら、彼らはこの世界に帰ってこられていないと思うし、地獄が受け入れる規模としても少数過ぎる」
「それはそうですけど……」
美優は自分の仮説を否定されて、少し言葉を濁した。
「がっかりすることはないよ。地獄というキーワードで思い付いたことがあるんだ。地獄の住人と云えば?」
「イザナミ、閻魔大王、馬頭、牛頭、獄卒と呼ばれる鬼」
「沢登さん。その通り、キサラギの正式な漢字表記は無いんだけど。鬼が攫(さら)うと書いて鬼攫(キサライ)それがなまったものか、俺はこっちの説の方が気に入っているんだけど、鬼仏(おにぼとけ)と書いて鬼仏(キサラギ)と呼ぶのはどうだろう」
「それって大学の単位が取りにくい先生と取りやすい先生の書かれた一覧を言いますよね」
「沢村、それは鬼仏帳(おにぼとけちょう)だな。僕のいう鬼仏(キサラギ)っていうのは獄卒のことなんだ。獄卒の鬼は現世の行いの反省を促し、来世の世を良くしようという仏のような慈しみの心で亡者を攻めているともいえるんだ」
「そやな、生まれ変わる人間がええ人ばっかりやと、世の中はどんどん良くなっていくやろな」
「藤井さん、まあそういうことだ。もっともこれは日本の話だろう。でも世界中にそういった地獄の話はよくあるんだ。それで天星人絡みでいうと……」
とうとう出て来た、天星人絡みと云うより天帝がらみと思うんだけど……。
「ここからは推測だ。殺された人間が七人というところに着目した」
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