第96話 沢村君、女子会の話題が気になるようでしたね

「沢村君、女子会の話題が気になるようでしたね」

「別に錬のことを話したりしないのに」

「そうそう、うちら瑠衣ちゃんと美優ちゃんの勿来の関の発掘話が聞きたいだけやのに」

「そう、後日談が聞きたい」

「その辺は錬とは、ほぼ毎日話をしてましたし」

「美優さんって沢村君とべったりなんですね」

「そりゃうちがそういうふうにアドバイスしたったもん。なるべく一緒にいるようにって。一緒に居れへんときは電話で連絡取り合えって」

「そうなんですか。これから彼氏を作ろうとしている私には参考になります」

「瑠衣ちゃんって、今まで男と付き合ったことあらへんの?」

「まあ、色々ありましたから」

「ほなら、やっぱり男の話をせんとあかんな」

 俺が女子会のことを気にしている気配はバレバレで、もちろん麗さんの車の中で話された内容は俺の知るところでは無いんだけど。


 **********BY鈴木部長*************

 

 あの犬鳴村の事件から一か月以上が経とうとしている。犬鳴村が勿来の関だったために、僕たちの活躍が大々的に報道された。もっとも、有名になったのは沢井さんと留萌さんであって、僕たちにスポットが当たることはなかった。まあ忙しくバタバタするのは嫌いだから別に注目されたいわけではない。それが証拠に二人は発掘に駆り出され昨日やっと福島から帰ってきたところのはずだ。

 提出の迫ったゼミのレポートをやりながら、そんなことを思っていると、久しぶりに藤井さんからメールが入って来た。深夜にも関わらずかなりの長文だが、どうやら沢井さんが福島から帰ってきた途端に騒動に巻き込まれたみたいだ。杉沢村と犬鳴村、思い返せば沢井さんって騒動を連れてくるきらいがあるよな。そして解決するのが沢村だし……。あの二人お似合いといえばお似合いだな。いや、それだけじゃない。


最初、沢井さんは集団の中でいつも浮き気味で周囲に溶け込めない印象を受けた。彼女自身が日常に違和感を覚えていたみたいだ。今の自分が何のために存在するのかひどく考えているようだし、そのために日常や周囲になじめず友達も少なかったみたいだ。まあ性格がよくて純粋に平和主義者のための反動だろうけど……。そんな沢井さんが沢村と出会うことで、自分の居場所とか使命を思い出そうとしているんじゃないか? そのために騒動を自ら引き寄せているんじゃないのか? 

何だったかな? こういう性格の人は実は生まれ代わりで、この世界をよくするために、地球に生まれ変わってきているって……。なにかとてつもない能力を持っていたはずなんだが……?


まあ、忘れてしまった話だ。今回は沢井さんが何かの能力に目覚めるとか……、まさかそんな荒唐無稽なことはないよなと考えてメールを読み進めていく。どうやら最近、起こっていた列車飛込み事故は不可解な謎が多いみたいだ。

 まず死に方、列車の飛び込んでいるのにその死因は、墜落死、絞殺死、噛殺死、水死、刺殺死、焼死そして凍死だって……。バラエティにとんだ死因だが、それを見て沢井さんは地獄の責め苦に似ていると感じたそうだ。なるほど、確かに八大地獄と八寒地獄、仏教の教えの中にある地獄の責め苦に似ている。もっとも地獄という概念は世界中の宗教にあるし、それぞれ地獄に落ちた人たちが受ける罰も似たようなものだ。

 後は死んだ人たちの関り合いだが、どうやら駅の中にある地下通路でたむろしていた男五人女二人の不良グループらしい。そいつら全員が最初の事件の少し前に地下通路からいなくなり、その後一か月ほどの間に、七人全員の変死が確認されたということだ。しかも〇時五分発三野霊園行きの最終列車に全員飛び込んでいるということか。

 さすがにテレビの報道ではここまで詳しい話は出ていなかった。知れば知るほど怪談じみている。しかし、駅で起こる怪談と云えば、僕がここ最近調査を進めている都市伝説キサラギ駅のこともあるんだが……。

 キサラギ駅の場所を特定することはできなかった。静岡県にある駅と言われているが、こういった駅の話は全国にあり、さらに言えば台湾や韓国にだってある。そしてこの駅は異世界に繋がっているというのがオカルトフリークたちの通説だ。


 そこで僕はふと気が付いた。キサラギ駅が地獄という異世界に繋がっているならどうだ? キサラギ駅これの漢字表記は特定されていないが、鬼攫い(きさらい)駅とか、ちょっと無理があるか? それじゃあ人名で大仏と書いておさらぎと読む名字もあったよな。なら鬼仏(きさらぎ)駅ならどうだ。地獄の獄卒(おに)というのは、地獄に落ちた人が悔い改めるために責め苦を行っていて、早く六道の輪廻に復帰させようとしている慈悲深い仏ともいえる。こう考えていくと沢井さんの地獄というのがあながち間違いではない気がしてくる。いや、十分に説得力のある説だ。

 この事件がキサラギ駅に関係があるとこの事件の犠牲者たちは地獄という異世界に行ったということいなるのか。しかし、地獄となると規模が小さすぎる気がする。全国的に起こってはいるがその人数はわずか……。地獄に落ちるべき人間はもっとたくさんいるだろう。今回は七人の犠牲者か。まるで生け贄みたいな数だ。思わず浮かんだ生け贄という言葉に自分自身が反応する。

 確か獄卒の中に生け贄を欲した神話があったはずだが……。スマホを検索してみると有った。やはり天帝絡みか。今回もあの天星人のベネトナッシュさんの協力を得る必要がある。

 僕はメールをみながらフーっと息を吐く。あとはどうやってその場所に行くかだが、沢登さんの「空間が不安定」という言葉が気になる。空間に亀裂が入り異世界と繋がるということか? 空間に影響を与える力か? すぐに思い浮かぶのは重力だ、しかし空間を物質とみなすなら物質に働く力は四つある。 


 そしてメールにヒントが書かれている。これなら理論的には異世界に行くことができる。失敗事例だがその実験結果も過去には大規模なものがある。

 

 考えがまとまった。後はみんなが信じるか信じないかだけど……。

 思考の渦に飲み込まれていたみたいだ。やはり、法律よりこの人知を超える不思議について考えている方が自分の性分にあっている。気が付けば、窓の外は白んできていた。


 ***********************

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る