第95話 な、なぜ、分かったの?

「な、なぜ、分かったの? ここから見えたの?」

「ちらっとは、でも、後はその死に方しかないなって」

「その死に方しかないですって?」

「ああっ、沢口さん、美優が言ってたんだけど、今回の連続事件、地獄の責め苦に似ているらしいって」

「そうなんです。八大地獄に八寒地獄。まず墜落死、絞殺死、噛殺死、水死、刺殺死、焼死これらの死に方って、地獄に落ち、黒縄地獄で絞殺、等活地獄で魔物に食い殺され、叫喚地獄で釜ゆでされ水死、衆合地獄で刺し殺され、灼熱地獄で焼死。大叫喚地獄と大灼熱地獄は前の五つの複合地獄だから除外。阿鼻地獄は別名無限地獄。一旦落ちれば抜けることはできない地獄だからそこで殺されたら帰って来れられないかなって。後は、八寒地獄はただひたすら寒いってことしか文献に書かれてないから、それらをまとめて凍死。地獄をこの世にみせるのが犯人の目的なら、残りは凍死しかないかなって」

「なるほどね。沢井さんはそんなふうに考えたんだ」

「沢口さん、どうだろうこの推理。俺はいい線いってると思うけど?」

「じゃあ犯人は獄卒の鬼ってことかしら?」

「考えられる。今の人は地獄を信じていない」


 沢口さんのつっけんどんな発言に麗さんが尤もらしく絡んできた。沢口さんは少し意外そうな顔をして言葉を言い放つ。

「まあ、私はこれから司法解剖があるから、また今度ゆっくり話しましょう」

「きっと今の話をきちんと整理して、沢口さんが納得できるようにすると思います。鈴木部長なら」

 あれ、留萌さんも心霊スポット研究会の肩を持つのか? しかも部長の飛んでも説を支持するつもりだ。まあ、医学部を卒業して大学病院に勤める沢口さんにとってはどこまで行っても胡散臭いだろうが。

 それより、これから司法解剖をするんだ。遺体はタンカーに乗せられロープの外に運ばれてくる。

「沢口さん。あの遺体、大学病院まで運ぶんですよね?」

「そうよ。検案事件だからね。私たちも大学病院の遺体搬送車で来たしね」

「遺体搬送車?」

「やだ、沢村君は知らないの? 死体は救急車には乗せられないのよ。遺体を乗せることができる許可車でないと」

なんで大学病院のバンでここに来たか、その理由がわかった。

「そうなんですか……。司法解剖で何か分かったら、また教えてください」

「分かったわ。あなたたちも何か分かったら教えて」

 そんな話をしながら駅構内の通路を急ぎ足で進む沢口さんについて俺たちも改札口に戻ってきた。そこから沢口さんたちは直ぐに死体搬送車に乗り込み行ってしまった。パトカーで来た警察官の方はというとまだ現場検証を続けているらしい。

 俺は麗さんに向かって尋ねていた。

「麗さん。どうして沢口さんに空間が歪んでいることを話さなかったんですか?」

「原因、分からない」

 確かに麗さんは何かを考えあぐねているらしい。理学部としては空間が歪むという原理を数多(あまた)の仮説から実証できるチャンスでもあるのだろう。

彩さんも仕方ないというふうに呟く。

「まあ、今まで分かったことを整理して、鈴木部長にメールしとくわ。あいつがなんか考えてくれるやろ」

「私もそれに賛成です」

 留萌さんも彩さんの意見に賛成した。

「それが一番ですよね。美優の考えもいい線行ってると思うけど、実際にその地獄とやらに行ってみないことには……」

「錬、また危険なことをすることになるのかな」

 沢口さんがあまり美優の説に取り合ってくれなかったので美優は少し落ち込んでいる。美優のためにも美優の言っていることが正しいと証明したいんだけど、美優は不安を感じているようだ。

「うちらの好奇心には際限があらへんからな。行けるとなったら鈴木が号令を掛けるんとちゃうかなー」

「でしょうねー」

 俺は彩さんの発言に心底同意する。ならとみんなを見回すと、頷き瞳をキラキラさせている。なぜ留萌さんまで? すでに鈴木マジックの中毒になっているようだ。

「しゃあないなー」

 彩さんがそう言って、スマホを取り出しメールを高速で打ち出した。今までの要点をまとめて、鈴木部長にメールをしているんだ。歩きながら話をしているうちに、気が付けば駅前の駐車場に付いている。

「これでよしっと。ほんなら今日は解散ということでええな」

「「「はい」」」

 全員の返事が揃うと、麗さんは車のキーを開ける。

「錬、今日は女子会だから……。気を付けて帰ってね」

 車に乗り込みながら、美優が俺に申し訳なさそうに言った。まあ、そうだろうな。女の子ばかりのところに俺が行くわけにもいかないだろう。

「そっちこそ、気を付けて」

 俺はヘルメットを被りながらみんなに言う。女子会の話題が気になるところだが、そんな気配は見せずに、バイクのエンジンをかけその場を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る