第94話 地下通路を戻り階段を上がり

 地下通路を戻り階段を上がりやっと地上に出て来た。この駅からの発着の最終便になる三野霊園行きがぼちぼち出発する時刻だ。駅ビルの明かりも消えて、バスターミナルもまだ最終便が有るところだけ煌々としているだけで、後はところどころにある街灯に照らされているだけで、いかにも地方都市が寝静まる寸前の佇まいだ。

 今日の収穫をお互い話しながら、駅駐車場に向かっているところで、ギ、ギィーっと金属がこすれ合う大きな音が駅構内中に鳴り響いた。

「ブレーキ音やな?」

「見に行きましょう!」

 彩さんが口を開き、俺はその言葉にすぐに返した。そして、四人で一階にある改札口まで駆け戻ると、線路上に列車が停止しているのが改札越しに見えた。俺たちが駅に入ろうとするとすぐに駅員に呼び止められた。

「君たち、今列車事故が起こって、列車は動かないから。三野霊園行きの臨時バスがでるからそっちを利用してください」

 そう言われたら、駅の中に入ることも出来ない。どうしょうか?と考えているとすぐにパトカーのサイレンが遠くから聞こえてきたと思うと、駅前ロータリーの中に滑り込んできた。そしてパトカーの後ろには、うちの大学病院の名前が入ったバンが続いている。

 なんでと見ていると、バンから白いつなぎをした人間が三人降りて来た。そしてその中の一人に沢口さんの姿を認めたのだ。

「沢口さーん!!」

「あん、あれ沢村君と沢井さんか。なんでこんなところに?」

「いや、実は地下通路の現場検証をしてきたんです」

「それで?」

「結構面白い事実が分かりましたよ。また報告しますけど」

「なるほど、じゃあ事故現場も見てもらった方がいいかな? そこにいる人たちは私たちの視点とは違うものが視えるみたいだしね」

 そういうと、沢口さんは駅員に俺たちもいっしょに入ることを告げた。

 そういうわけで、俺たちは沢口さんと一緒に階段を上りホームに続く高架を歩いている。

「沢村君、どうやら死んでいるのはこのあいだのグループで最後に残ったひとりらしい」

「やっぱり」

 俺は沢口さんから聞いてやはりと思った。ひとりだけ生き残っているとは最初に訊いた時から思っていなかった。俺の言葉を聞いて沢口さんは頷いている。

「後は、どんな殺され方をしているかですね?」

 美優も話の中に入ってくる。

「言っとくけど、君たちは見ない方がいいからね」

「「「「はい!!」」」」

 そこだけは全員返事が揃った。

 さて、階段を下りていき、ホームが見えてくると、すでに警察官がロープを張り、そこから先へはいけないようになっている。さらにロープの先には毛布にくるまれた物体が……。あれが遺体なんだろう。

 俺たちは、ロープのところで止まったが、沢口さんは警察官と二言三言話すと、ロープを潜って毛布に近づき、毛布を少し捲(めく)った。そこに見えたのは、赤黒くなった人型、まるで壊疽(えそ)を起こしたようになっている。俺は見るとはなしに見てしまったが、彩さんも美優も留萌さんも同じなのだろう。サッと目を逸らし、顔色がみるみる悪くなっている。

 そして麗さんと云えば、若干俺たちとは違うところを見ていた。目線は列車の先頭部分。しかも若干、上のほうである。

「麗さん、どうしたんですか?」

「あそこの空間も不安定」

「あの、それって地下通路と同じなんですか?」

「違う、性質的には真逆の存在」

「なにが真逆ですか?」

「私にも分からない」

 困った。麗さんでも分からないなんて。知識のない俺にはもっと分からないだろう。例えば空間が歪むと言われて思い付くのは重力だ。重力が強ければ空間が歪む。だったら性質が違うと言うのはブラックホールとホワイトホールみたいな感じなのか。でも現にどちらの現場にもいたが、重力に引っ張られるような感じはなかった。いや、空間を歪める力は重力だけとは限らない。ほかに働く力って言うのは?俺は頭がこんがらがって来た。そんな状態の時、麗さんがボソっと呟いた言葉で俺は現実に戻ることができた。

「あっ、消える」

「なに、空間の歪みが消えるのか?」

「うん」

 麗さんがそう答えた。その答えに俺が何か考えかけて、そのタイミングで沢口さんも検死が終わったようだった。立ち入り禁止のロープを慣れた動作で潜り難しい顔をして出てくる。

「沢口さん、どうでしたか?」

 声を掛けた俺に顔を向けて口を開こうとするところで、隣にいた美優が口を挟んでくる。

「沢口さん。死因は凍死でしょ?」

 口を開きかけた沢口さんが、そのまま口を開いたまま目を見開いた。美優の言葉に凄く驚いたようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る