第93話 そして、待つこと三分ほど

 そして、待つこと三分ほどやっと近藤が麗さんたちを連れて戻って来た。

「沢村さん。すんません。この人たち中々俺の言うことを信じてくれなくて」

「当たり前やん。こんな前科一〇犯みたいな大男が声かけて来たんやで! はいそうですかって信じるかいな」

「この人たち大丈夫。敵対するオーラはない」

「麗さんもそういうから、付いてきたんですけど……」

 彩さんは、結構抵抗したらしい。麗さんは相手の気持ちがオーラで読めるからな。それに従う留萌さんはかなり麗さんのことを信頼しているみたいだ。

「ごめんごめん。長い間待たせて。近藤は俺の後輩でこんななりしてるけどいい奴だから」

「ほんとにそうっス。暴行と盗みと恐喝以外は悪いことしてないス」

「いや、それは十分悪いことだから。俺法学部にいるのに、こんな奴らと一緒にいると問題がありそうだ」

「じゃあ、沢村さんは将来は弁護士になるんスか? 何かあった時はお願いするっス」

「いや、無理だろう。それより、さっきの話の続きをお願いできるかな」

「おおそうだった。木村、話してみろ」

「あの……。あの人たちを最後に見たのは1か月前の夕立があった日です。次の日からはばったりあの人たちを見なくなりました」

「おおっ、あの雷が凄かった日か! 俺たちも雨宿りでこの地下通路の端に居たよな。最近できた携帯の基地に落ちたみたいで、深夜0時頃に携帯が繋がらなくなったよな」

「えっと、携帯の中継基地が最近立ったのですか?」

 留萌さんが木村の話を確認する。

「そうっす。2か月前ぐらいだったス。ここ地下街は携帯が繋がりにくくて、それまで、この地下通路、噂ほど不良のたまり場じゃ無かったス。今の不良は携帯が命スから」

「じゃあ、そのころから不良のたまり場になったのか?」

「そうすね。事故で死んだ奴らも、そのころからここでうろうろするようになったス」

「それで、いなくなったのは七人って聞いているけど?」

「そうっすね。男が五人で女が二人っス」

「女の人がいたんだ」

 俺が詳しく話していなかったので、留萌さんは不良と聞いて男ばかりだと思っていたのでその内容に驚いていたようだ。

「そうなんスよ。それでそいつら、この通路の真ん中で、かなり露出気味にイチャイチャしやがるから居心地悪いって言うか、他の奴らはそいつらと少し離れてたむろしてたんスよ。それで後生き残ってんのが女一人なんスよね。あの女がやったんスかね」

「まさか、女一人じゃできないだろう」

 俺は近藤の話を否定する。この世ならざる者でないとできないような犯行。女手一人でできるとは思えない。

 なるほど、被害者たちは他のグループから孤立していたわけだ。だとすると他のグループに聞いてもこれ以上の情報は出てこないだろう。

「悪かったな。色々教えてもらって。それにそこの殴った奴も」

 俺は裏拳を叩きこんだ奴に頭を下げた。そいつは、鼻血は止まったみたいだけど今度は顔が腫れてきている。

「ばか。お前は沢村さんの彼女さんに謝れ」

 さっきもそうだったが、美優は俺の背中に張り付いて動かない。でも、彼女さんと言われて緊張した表情が崩れている。

「いえ、大丈夫です」

 美優に言われて、近藤に言われてちょっと不貞腐れていたこいつも、「さっきはすみませんでした」と素直に謝っている。

 これにて一件落着。そう思って東口に戻ろうとした途端。頭の上をゴーっという音とともに地下道全体が揺れた。まるで地震のような揺れだ。時計を見ると丁度深夜〇時。

「ああっ、この時間最終列車がちょうど三方向に重なってひどく揺れるっすよね」

 その時、麗さんが呟いた。

「この空間は不安定」

「えっ、麗さん何か?」

「今、気が付いた。ここにはいない方がいい」

「麗、それやと誰も分かれへんわ? もっとわかりやすくいってくれんと」

「私にも分からない。空間が不安定、まるで生き物のように脈打っている。あれ、今終わった?」

 麗さんにも分からないだって。それは嫌な予感しかしない。でももう大丈夫のようだ。さっぱり訳がわからない。

「あの沢村さん。どういうことですか?」

「おっ、近藤、どうやらこの空間はよくないことが起こるらしい。あまりここでたむろしない方がいいな」

「そうなんスか。ここあまり人が近寄らなくてよかったんスけど」

「でも、この人の言うことはよく当たる。悪いことは言わん」

「はあー、分かりました。お前ら岸を変えるぞ。それじゃあ、沢村さん失礼します」

「おう、気をつけてな」

 俺たちは東口に戻るように、そして近藤たちは西口に分かれて歩き出した。

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