第14話 杉田は心霊スポット研究会のメンバーの目を避けるように

 杉田は心霊スポット研究会のメンバーの目を避けるように、大学の正門に向かう大通りから、わき道に入って、下宿が立ち並ぶ迷路のような路地を、法学部の先輩の下宿に向かっている。

 この先輩、例のヤリサーの部員で、どういう訳か、金まわりも女まわりもめちゃくちゃいい。松本というやつと始めたサークルは、男八人ほどのこじんまりしたサークルなのに、女は有象無象を含めて三〇人以上いるといわれている。もともといい噂は聞かなかったが、この間、この先輩が杉田にルール違反の勧誘をしてきたのだ。

 杉田は、その話を受けるのと同時に、女をあてがわれ、杉田も犯罪集団の一人となってしまったのだ。

 去年から医学部の学生をサークルの部員にすることで、お酒でつぶすだけではなく、薬物さえ使って、女性の自由を奪い自分の思い通りにする。それで飛躍的に女子部員が増えた。そんなヤリサーの実態を知ると同時に、自分も犯罪者になったため、杉田はヤリサーから抜けることができなくなっていた。

 しかも、杉田は初めての女が、いつでもどこでもやれる自分に一切逆らうことがないダッチワイフのような女を手放すことなど、どんなことがあっても、もはやできなかった。それが、例え心霊スポット研究会の女性たちをヤリサーたちに売ることになったとしても。

 それに、自分が高校生の時から、想像の中でなんども汚した沢井美優。その生身の沢井美優を想像通りにいたぶり、汚すことができるなら……。


 杉田は、先輩の部屋の前まで来ると、部屋の中からは女の気配を感じた。訪ねる度にいつものことだ。

 杉田は、先輩の部屋をノックする。しばらくすると、先輩がドアを開けて、面倒くさそうに応対する。

「なんだよ。今お楽しみ中なのに、なんか用か?」

「先輩、心霊スポット研究会の次の遠征先と日程が分かりました。四月二七日で場所は黒姫山です」

 そういうと杉田は、さっき鈴木部長からもらった航空写真を渡す。

「黒姫山、また民家の無い都合の良い場所を選んでくれたことだ」

 ニヤリと笑う先輩。

「あの、これから計画を練るんですか?」

「バカ野郎、俺は今お楽しみ中なの。今日は縛ってやってるから締まりの良いこと。それに松本さんは、三人をお持ち帰りだしな。まったく現代の将軍様だぜ。羨ましいことだ」

 そういうと先輩はシッシと追い払うように杉田を追い返す。それでも、杉田の背中には投げやりな指示を出していた。

「後は俺たちがやっておく。お前は当日俺たちに合流すればいいんだ」

「はい!」

 杉田は振り返り返事をするが、先輩の部屋のドアは、すでに閉められていた。

 いつものことだ。このサークルの人間は、自分のことしか考えていない。

 これが心霊スポット研究会なら、鈴木の飛んでも説にワイワイ言いながら計画を練る。すでに遠征が始まっていることを実感できる。

「ちっ、俺も女呼んで、縛ってやってみるか」

 杉田は独り言を言って、携帯を取り出した。


 四月二六日、昼過ぎ、ヤリサーの連中が、八人乗りのミニバンに乗って、黒姫山に出掛けた。サークルには遊ぶ道具は一通りそろっている。特にミニバンはカーセックスにもってこいだと嘯(うそぶ)く連中なのだ。

 高速を降りて、幹線道路から黒姫山の麓の集落が使う生活道路を抜け、いよいよ林道に入っていく。道はどんどん狭くなってすでに車同士がすれ違えるだけの幅もない。道路の左側には、手入れがほとんどされていない鬱蒼とした杉林が、右側は崖になっていて、五メートルほど下には、豊かな水を湛(たた)えた沢が流れている。ほとんど日の当たらない道路は、この山が豊富な地下水を湛えていることを証明するように、道路わきから染み出る地下水が乾くことなく、道路を濡らしている。


 後部座席にふんぞり返る松本が愚痴をこぼす。

「なんだ。この辛気臭いところは? 女でも連れてくりゃあ良かった」

「仕方ないっすよ、松本さん。仮にも幽霊が出そうな場所なんですから」

「それにこの車、八人乗りすっから、定員オーバーすっよ」

「バカ野郎! 俺の膝の上が空いてるだろうが!」

「いや、だって、 帰りはどうするんです。心霊スポット研究会の女たちを乗せて帰る場合もあるっしょ」

 そうなのだ。ここは人里離れた黒姫山。場合によっては、心霊スポット研究会の男をぶちのめして女をさらう可能性もあるのだ。特に沢井美優を誘った二年生三人は、沢村錬に恥をかかされた恨みを持っている。人目さえなければ「ぶちのめせ」と号令されれば、袋叩きにする気満々なのだ。

 ミニバンには、木刀にバール、大型のケーブルカッター、挙句の果てには、熊も逃げ出す催涙スプレーとスタンガンも積み込まれていた。

「はははっ、そうだった。まあ、あの女たちは心霊スポット研究会から俺たちとGスポット研究会を発足してもらおうか!」

 松本の高笑いに、車に乗っていた男たちがニヤニヤ笑う。



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