第15話 道は、沢を渡るように右に曲がる

 道は、沢を渡るように右に曲がる道とさらに黒姫山の頂上に近づく左に曲がる別れ道に差し掛かった。左手に曲がる看板には、国有地につき侵入禁止の看板が出ている。

 ミニバンを運転している男は、ハンドルを左にきる。

「松本さん。あと三キロぐらいっす」

「そうか、もうすぐ着くな」

 しばらく、走ると杉だけでなく、その他の雑木も生え出し雑木林に周りの景色は変わっていく。アスファルトの上にも落ち葉がつもり、何年も車が走った形跡がない。

 そして、車の右側に、幅三メートルもない砂利道があるところを少し通り過ぎると行き止まりになり車が方向転換できるように少し広くなっている。

「すんません。通り過ぎました。さっきの砂利道のところみたいです。ここからは歩いていくしかないです」

 運転していた男が、車に乗った連中に行った。

「よし、車を降りて歩いて向かうぞ 車は隠しとけ!」

 その指示に従い、車からボロボロのシートを出して車を覆う。こうしておけば後から来た心霊スポット研究会の人間もここに車を捨てたと考え、誰も先客がいるとは考えないだろう

 やり終えるとヤリサーの連中はそれぞれリュックを背負い道を戻っていく。

「ここから一キロほど登るんすか~」

「砂利を引かれた林道の入り口に立って誰かが言った。

「じゃあお前は帰れ。こっちはブスとやるのはもう飽き飽きなんだよ!!」

 松本がそういうと砂利道を進んでいく。

「先輩待ってください。俺行きますから!!」

 先ほど言った男が松本に続き、みんなぞろぞろと進みだした。道はそれほどの傾斜ではない。道は砂利が引かれているが、あちこちに、雑木が生え、木の根に足を取られて進みにくい。

 それに湧き水を含んだ落ち葉が積もり、滑りやすくなっていた。

 道ではなく登山道のましな部類と言ったところだ。

 それでも、一五分ほど歩くと砂利道に有刺鉄線が張り巡らされている。

 男たちは、さっそくケーブルカッターを持ち出し、有刺鉄線を切断していく。

 かなり頑丈そうだった有刺鉄線は、そこに何十年もあったようで錆が浮き上がって脆くなっていて、簡単に切断することができた。

「松本さん。これってこれから先は入るなってことっすよね?」

「ああっ、この先に軍事施設があったっていう心霊スポット研究会の話もまんざら嘘じゃないのかもな。ただし一〇〇年ぐらい前の話だ」

「それで、鉄がさびてこんなにボロボロになってるんすか。でも、このまま入っていって大丈夫なんすか」

「心配するな。もう何十年も使われていないのは見てわかるだろう。それに大体心霊スポットっていうやつは立入禁止場所になってるもんなんだ」

「「「そりゃそうだ!!」」」

 男たちは松本の話に納得する。いよいよ怪しくなっていくこの道は、それから一五分ほど歩くと城壁のように高く立ち上がった山肌に行き当たり、そこから先には道がない。

 ただし、その山肌には、直径二メートルを超える洞窟が掘られ、洞窟の入り口は、先ほどのようにぐるぐる巻きになった有刺鉄線が張り巡らされている。

「松本さん。行き止まりになっちゃいましたよ?」

「そこに、洞窟があるだろう。さっさと有刺鉄線を取り除いて、その洞窟を調べるんだ」

 中をライトで照らしてした男が松本に報告する。

「こりゃ、ただの防空壕ですよ。二、三〇メートルほど先で行き止まりになってます。俺、同じようなものを見たことあります」

「バカ野郎、こんな人里離れた山ん中に防空壕があってたまるか!! ここまで逃げてくるうちに、撃ち殺されちまうだろうが!」

「そりゃあ違いねえ」

「だったら、日本軍がここに弾薬とか隠していたのかも?」

「まあ、そんなところだろうな。」

「何が出てくるか楽しみっす」

 男たちはそんな話をしながら、有刺鉄線を切断していく。先ほど道にあった簡易な物とは違い蜘蛛の巣のように縦横に巡らされている。しかし、こちらの鉄線もやはりもろくなっていたため、難なく切断し、男が二人ぐらいは並んで通れる穴を開けた。

 そして、男たちが、ライトをつけ洞窟を進んでいく。

周りの岩肌や足元はコンクリートで固められていて、とても、急ごしらえのにわか仕事とは思えない。

「こりゃ、かなり時間を掛けて、計画的に進められたようだな」

「車でも通れそおっす」

 松本の言葉に、周りの男たちはうなずいている。

入口から三〇メートルぐらい進んだところで、男たちは、表から見えたのは洞窟の岩肌ではなく、頑丈な鉄でできた壁であり、その壁に、鉄の扉があることに気が付くのだった。

いい女をさらって、思い通りに弄(もてあそ)ぶ。これからしようとしている行為は犯罪である。緊張感は伴うが、そこに怖いとかの感情は全くなかった。

しかし、男たちはだんだん肝試しのシチュエーションが大掛かりになっていくことに言い知れぬ恐怖を感じだしていた。


男が扉を調べて松本に報告する。

「松本さん。ダメっすカギがかかってるっす。結構頑丈な扉で、これ以上進むのは無理っす」

 松本は少し考え事を始めた。

(明日、心霊スポット研究会の連中が、同じようにここまで来て、やはりこの扉を見たら、慎重派の鈴木のことだ。きっと、引き返そうと言い出すに違いない。奴らをもっと奥まで誘い込んで、にっちもさっちもいかなくなったところで、俺たちが最大の恐怖を与えてやらないとな)

 女たちの絶望に歪む顔を思い浮かべ、ほくそ笑む。松本の異常な性格は、すでにストーカーの域を超えている。女を犯すことのみが行動原理。しかも今回狙うのは至高の女だ。しかも三人。ならばここで引き返す選択はない。奇麗な蝶々を誘き寄せて捕まえるためには甘い蜜が必要だ。


「その扉をぶち壊せ!!」

「松本さん、さすがにそれはまずいっしょ」

「構うことはねえ、もう何十年もここにきている形跡はねえ。どうせ、廃墟なんだ。訪問者がぶち壊していくのはお約束だ。それに前から壊れていたのか、今壊れたのかは誰にもわかんねえ」

「確かに」

「違いねえ」

 何人かは躊躇したが、二人がバールを持ち出して、扉の隙間にバールを差し込み、テコの原理を使ってぐいぐいと扉を持ち上げる。さらに扉の横にもバールを差し込み、蝶番(ちょうつがい)の部分をぶち壊していく。鉄の扉も錆ついていて、蝶番を止めているネジが緩んできた。そしてガタガタと動き出した扉に別の二人が体当たりをぶちかまして、扉はガッツーンと大きな音を立てて、ついに内側に倒れた。



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