第13話 一通り、部長が話を終えると

 一通り、部長が話を終えると、後はいつもの宴会になっていく。

 ワイワイガヤガヤ、俺は羽目を外さないよう気を配る。決して美優や彩さんを独り占めしないように。そこのところは、美優もわきまえていて、他のメンバーと楽しくおしゃべりをしているのだが……。なぜか杉田だけは美優を避けているようだ。いや、サークルのメンバー全員を避けているようなのだ。

 俺は美優に意識を向けながら、杉田の不可解な行動に疑問を感じた。杉田の目は、前の時以上に執着と嫉妬を美優に向けているのに、美優に対して後ろめたさを感じているようだ。

(なんで?)

 すると俺の気持ちを見透かしたように、麗さんが呟く。

「杉田、危険……」

 それは、俺に対する警告なのか? 俺が麗さんの方を見ると、それ以上はわからないというように、かぶりを振った。

 その時、背中をパンパン叩かれた。

「こら、沢村!! 飲んでるか? 沢登さんのほうばっかり見るんじゃねえ」

「そうそう、お前いつも藤井さんが絡んでいるから,男同士の話ができないだろ。バイクの話もいいけど、女の話もしようぜ!」

 今まで、ほとんど話したことがない山岡先輩と田山先輩に挟まれ、この人たちのコンパの武勇伝を聞かされる。どこそこの女子大のなになにさんがかわいかったとか。いい線までいったのに、横から同級生のイケメン野郎にお持ち帰りされたとか。そんなどうでもいい話を聞かされた後、どこそこの風俗店のマリアちゃんに筆おろしをしてもらったとか。どこそこの店はかわい子ちゃんぞろいだったけど、ぼったくらっれて、いまだにクレジットの借金が残っているとか、今度は大変有意義な話を聞かせてもらうことも出来た。

 もっとも話の最中、時々、部長たちと話をしている彩さんが、ニヤニヤしながら俺の方を見ている。えーっと、これは俺をからかう算段をしているに違いない。

 そんな感じで、玉石混交の話が入り乱れていくうちに、宴会はお開きの時間を迎える。

「それじゃあ、三日後、各自体調を整えて、九時に大学正門前に集合な!」

「「「「おう!!」」」」

 お酒が入っているので、みんなのノリがいい。大学生になって、恥ずかしげもなく掛け声を上げる。

そして、前回同様、麗さん、彩さん、美優がさっさと席を立ち帰えろうとしたところで、俺の方も見て、彩さんが悲しい顔を。

「錬君、マリアさんのところに行っちゃイヤや……、お姉さんは悲しいぞ!!」

 だーっ、やっぱり彩さんは聞いていた。

 そんなこと言うなら、彩さんが筆おろししてください。そう言いたいのを抑えて俺は返す。

「マリアさんなんて、外人さんは知りませんよ」

「マリアって……?」

「はいはい、美優ちゃん行くよ。錬君には複雑な事情があるのよ。それとも美優ちゃんが助けてあげる? 錬君困っているみたいだから」

「はい、私ができることなら」

「プーッ」彩さんは噴き出した。

「錬君、どうにも我慢でけへんようになったら、美優ちゃんに言うんよ」

 さらに、笑い転げようとするところを、麗さんといぶかしがる美優に抱えられながら居酒屋を出ていった。

「まあ、藤井さんは飲んだら笑い上戸になるからな」

 部長が呆れたように言い、周りのみんなも頷きながら、居酒屋を後にする。

 タクシーを拾う者、自転車を押して帰る者、バラバラと家に向かって帰りだす。俺は杉田が、いつの間にかその場に居なくなっていることに気が付いた。

 何か心配事でもあったのか? 今日一日ノリが悪かったようだが、そんなこともあるだろうと俺は気にすることもなかった。

俺は慣れたもので、部室棟に向かって歩き出す。いつでも泊まれるよう部室のカギは、部長にお願いして合いカギを作ってもらったのだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る