第14話 路面電車

 エリコさんが、母と直接話したことで警察も納得してくれた。

 

 晴れて僕は自由の身になった、様な気がした。


 僕が被害者なのに。

 

 男は何度も「申し訳ない」を繰り返して、僕が見えなくなるまで交番の前で見送ってくれた。


 僕は交番と男が見えなくなるとエリコさんにお礼をしなきゃと思って話しかけた。


「あの、エリコさん」


「なあに?」


「あ、ありがとう」

 僕がそう言うと愛くるしい笑顔でエリコさんは、


「そんなこと。まずは食事でしょ。何が食べたい?」

 正直言うと、緊張で胃がどうにかなってしまいそうな体調だった。


「すみません、ちょっと今は食べれそうもないです」

 僕が胃の辺りを擦りながら答えると、エリコさんは少し残念な顔をした。


「でも、なんでエリコさんはここにいるの?」

 僕は気絶前の質問をもう一度してみた。


「私、逃げてきたんだ」

 そりゃそうだろう。


 弟の償いで好きでもないオヤジと結婚させられるんだ。


「あれから、何かあったの?」

 エリコさんは苦笑いしてそれきり答えてはくれなかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 エリコさんと僕は喫茶店に入り、僕にはアイスティーを頼んでくれた。


「それで、これからどうするの?」

 エリコさんの漠然とした質問への答えは僕の中にはない。


「まあ、また来た道を帰るしかないんだろうね」

 やや僕は投げやりに言った。


「でも今日はもう函館行きの列車はないでしょう?」

 

「明日の朝までないよ」

 

「そうか。今日はじゃあ、一緒にどこかに泊まりましょう」


「でも、男の人に見つかったら大変じゃない?」


「大丈夫よ。見つからないから」

 伏し目がちにエリコさんはそう言った。


 二人で喫茶店を出ると、外はもう暗くなりかけていた。


 僕たちは大通り公園に向かって歩いていた。

  

 もう、街は看板のネオンサインが灯っていてきらびやかだった。

 すすきのの交差点のNIKKAウヰスキーの看板はド派手で昼間にも見たけどちょっとびっくりした。


エリコさんが、


「路面電車に乗らない?」

 と提案したので、快諾した。


 会話が途切れていた。

 何とか話さなきゃ、と思って僕は、


「僕にさっきどうする、って聞いていたけど、エリコさんこそこれからどうするんだよ」

 少し考えてからエリコさんは僕にこう返してきた。


「勇希君のお嫁さんにしてもらおうかな」

 思わぬ答えにどぎまぎしていると、 


「冗談よ。こんなオバさん、お断りよね?」


「降りよう」

 僕の中で何かが弾けた。


 僕は、路面電車から降り、電停でエリコさんに向き合った。

 

 エリコさんが僕よりも背が低いんだな、なんて考えていふうちに、気がつくとそっと抱き寄せていた。

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