第13話 身元引受人

「なんで、こんなところにエリコさんが」

 僕はそう言ったきり、体中の痛みから意識が飛んだ。


 気が付くと、僕は中島公園のベンチで寝ていた。


「おお、気が付いたか」

 失神から目覚めた僕に声を掛けたのは、僕を殴ったあの男だった。

 失神してからそんなには時間は経っていなかった。


「さっきは本当に済まなかった。いろいろあって、ちょっと気が立っていて」

 僕は身構えたが、しおらしい顔をして謝ってきた。


「謝ってすむような話じゃないよな」

 男はそう言った。咄嗟には冗談じゃない、とも思ったけど本当に悪かったって顔をしているし、


「僕もぶつかってすみませんでした」

 と、正直譲歩しすぎるような返事をしてしまった。


「あの、さっきの女性は」

 僕はエリコさんの事をその男に訊きながら体を起こした。


「いっ、」

 やっぱり、体中が痛む。でも骨は折れていなさそうだ。


「今、警察に行っているよ。逃げないように僕の免許証を持ってね。あの人にものすごく怒られたんだ。君をちゃんと見ているように言われてね」

 ここへは、この男の人が僕を運んだようだった。


 間もなくして、エリコさんと警察官が二人僕と男のところにやって来た。


「どうしたんだ? 大丈夫か?」

 年配の警察官が僕に訊いた。


「ええ、僕がこの人にぶつかってしまって、喧嘩になったんです」

 僕は少し事実をオブラートに包んで話した。


「君本当かね? この方の言っている事と違うのだが」

 もう一人の若い警察官は男に訊いた。


「いえ、僕が一方的にこの子を殴ったんです」

 この男は、正直に答えてくれた。


 彼にとってお本当に気分の悪い何かあったのだろう。


「一応、傷害も絡んでいるから、そこの交番まで来て事情を聞かせてくれるかな? 君は歩けるの?」

 年配の方が僕を気にかけてくれてそう言った。


「ええ、なんとか大丈夫です。酷くなる前に、そちらの女性に助けていただいたので」

 僕らは3人で交番へ行き、2時間近く事情聴取をされた。


 聴取の最後に、


「この男の人をを訴えますか?」

 と言われたけど僕は、


「いいえ、幸いケガも大したことはないし、ちゃんと謝ってくれたからいいです」

 と答えた。


「そうか。でも未成年だしね、君のご両親に連絡を取らせてもらうよ」

 そう若い警察官は言った。


 本位じゃないけど仕方がない。


 これで僕の旅も終わりだな。


 警察官は電話をしている。多分電話先は母だ。


「ええ、そうなんです。相手の男も反省してまして、勇希くんも訴えないと言っていますので」

 母は僕に電話に代わるように言った。


「勇希です」


「勇希大丈夫かい? もう、怖くなって帰ってくるでしょう?」


「その事なんだけど、どっちにしても帰るのは一人だしちゃんと最後までやり抜きたいんだ」

 僕はダメ元でそう言ってみた。


「そうかい? じゃあ、母さんは勇希を信じるよ」

 と信じられないような答えが返ってきた。


 警察官たちはあきれていた。てっきり家出少年だと思っていたみたいだった。


「しかし、未成年者をこのまま旅をさせることはちょっと」


「私が!」

 エリコさんの声に僕は驚いた。


「この子が青森から上野行きの列車に乗るまで。私がきちんと見届けます」

 なんとエリコさんが僕の面倒を見てくれるというのだった。

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