第3話 高校生たち
僕は、たかをくくっていたのだ。
青森行きの普通列車は空いていると。
ホームに着いて唖然とした僕の前には、ギュウギュウ詰めの車両。
何故こんな時期のこんな時間にこの混雑が?
考えても答えは出なかったが、この列車に乗らないことには始まらない。
背負ったバックパックを胸に抱えてなんとか乗り込んだ。
周りは僕よりも一回り大きな高校生と思われる男子生徒が多数乗っていた。
初めて聞く生の仙台の言葉は心地よく、すっと心に入ってきた。東京の高校生に比べて怖くないし、なんだか優しそうな感じすらした。
物珍しいのか、一人の高校生が話しかけて来た。
「何処から来たんだ?」
「東京からです」
「ぬっさのかっちゃはわねの?」
んー、何言ってるのかわからない。
取り敢えず愛想笑いをして頷いてみた。すると、
「質問してんだ」
と、怒られてしまった。
「すみません、良く聞き取れなくて」
と答えると笑いながら、
「ママはいねえのが? って聞いたんだ」
と真っ黒に日焼けした坊主頭の高校生は言った。
「こっち、こ。
とも。
つまり仲間に入れてやる、との事だった。
数人の高校生に子供扱いされて随分とからかわれたが、とても楽しかった。
東京にはみんな行ったことが無いから羨ましいと口々に言われたが、どう返して良いか、天狗に思われても困るし、ちょっと困った顔をしていたら、話は終わった。
聞くと、高校生達はこの列車に乗って、小牛田の高校まで帰るという。仙台で何か学校行事があったそうだが、内容までは忘れてしまった。
「へばな、」
といって高校生達は降りて行った。
小牛田を過ぎると列車は空いていた。
青森行きの列車は晴天の中、左右の水田を掻き分けるようにして進んで行った。
漸く稲穂が出始め、これから籾の中身がどんどん膨らんでくる時期だ。
稲穂の緑は目に眩しく、東北に来たという実感がこみ上げて来た。
時折警笛を鳴らす。トンネルに入る。そしてまた田圃。その繰り返しが続く。
車内はというと、家族連れ、野菜の行商のような姿をしたお婆さん達、学生など様々で、その中で一人ボックスシートに座って笹かまぼこを齧る中学生。のんびりした時間が車内を支配していた。
花巻辺りであっただろうか。
そののんびりした雰囲気を破るような人物が ―― 所謂バンカラ的出で立ちの学生が、眼光鋭く周囲を見渡しながら乗車して来たのだ。
車内は、にわかに ―― 少なくとも僕は ―― 緊張した。
バンカラ学生、という存在を知らないではなかったが、見るのも初めてであったし、何が目的でそんな出で立ちをしているのか、遭遇した時何をされるのか予備知識などない。
来てくれるなよ、と思うと来てしまう「何とかの法則」通り、彼は僕の前に陣取った。
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