第2話 仙台で

 上野から出発した列車は、正午少し前に仙台駅に着いた。ボックスシート席はほぼ垂直の背もたれなので、少し身体が痛くなった。


 仙台は恐らく10年振りぐらいのはずだった。叔母が当時仙台に住んでいて、夏休みに遊びに行った記憶が薄っすらとあった。四歳の時だと思う。


 14歳のあの頃、既に仙台には知己は居らず、ただ通過するのみの存在になってしまった。

 

 青森行きの普通列車は、13時ちょうどか、5分過ぎに出発した記憶がある。昼食には丁度よい乗り継ぎ時間である。


 一度仙台駅の外に出てみたものの、要領を得ないのでまた仙台駅構内に戻った。


 のびのびきっぷで改札を出入りするのには少し躊躇いがあったのだが、この経験で躊躇いはなくなった。


 結局一人で駅そばを啜る。何とも味気ない。キオスクで飲み物と菓子を少し買い、青森行きのホームに向かった。


 薄暗い連絡通路を歩いてホームに向かっていると、後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。


 誰だろうか。仙台で僕を知る者などいるはずが無いのに。その声は何処かで間違いなく聞いた声だった。


 振り返ると彼は人懐っこい笑顔を湛えて僕に近づいてきた。


「お前なにしてんだ?」

 と人懐っこい笑顔を僕に差し向けていたのは去年の暮れにお父さんの転勤で転校して行った吉岡君だった。

 

 動転した僕が放った言葉は、


「背、高くなったね」

 だった。


「何処行くんだよ?」


「これから青森に行って、青函連絡船に乗るんだ」


「家出?」


「…」


 昔からこういう奴だった。


 吹き出してしまい、お互いに笑った。吉岡君は千葉から転校して来た僕に何かと親切にしてくれた無二の友人だった。


 彼が転校した時は流石に落ち込んだが、直ぐに忘れてしまう14歳。


 しかし彼の顔をみた刹那、去年までの彼に対する感情が蘇って少し心の中で泣いていた。


 名残惜しいがそれでも、


「そろそろ行くよ。もうあと2分で出発なんだ」


「ああ、またな。俺の電話番号知ってるよね?」


「多分ね。また何処かで会おうぜ」

 じゃあね、と手を振って再び歩き出すと、吉岡君が走って追って来た。


「これ、持って行けよ。直ぐ食べるんだぞ」

 差し出された右手には笹かまぼこが。


 彼は僕とは反対に帰省で東京へ彼の母親と向かう所だった。


 彼の母親が僕に、と少し分けてくれたらしい。


 遠くで会釈をしている吉岡君の母親に深く礼をし、急ぎ足で青森行きの列車に急いだ。


 漸く着いたホーム。当日は快晴で気温も高く、湿度も高かった。走った僕は最早汗だくだった。


 そしてそこで見たものは想像を絶する事態だった。


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