第11話嘘は許さない、から

 日が落ちてから実家に戻った俺は、リビングでショッパーから服を取り出していた。


 十着以上も新しい服がある。もう一年分は購入したんじゃないだろうか?

 途中から怖くなって値段を見るのをやめたけど、姉には結構な負担をかけてしまったと思う。


「買った服を着てみない?」


 姉の一言から、ファッションショーもどきが始まった。

 色や形の組み合わせをいろいろと試していく。


 新しい組み合わせにするたびに「かっこいいよ!」と、褒めてくれるものだから、やめるにやめられず、ご要望が尽きるまで付き合うことになってしまい、体力が尽きてソファーの上で横になる。


 時間は22時。すぐに寝たいが問題がある。実家に俺の部屋はあったが、家を出るときに家具は持って行ってしまったのだ。要は、寝る場所がない。


 仕方がない。残った体力を振り絞って家に帰るか。

 実家の状況はいろいろと気にはなるが、明日またくればいいだろう。どうせ無職なのだしな。


「そろそろ帰るよ」

「え!?」


 体を起こしてから、姉に向かって言うと驚いた顔をしていた。


「な、なんでかな!? コードだらけの家が嫌だとか? 寝室にはコードはないから快適に寝れるよ!」


 腕をつかまれて痛い。指が食い込むほどの力が込められている。

 目のハイライトが消えている……だと!?

 高田の前に姉が闇落ちしそうじゃないかッ!!!!


 やばい、やばい、やばい。

 生活からタイムマシンの情報まで姉に頼らないといけないのに、ここでバッドエンドを迎えるわけにはいかないんだッ!


「そ、そうなんだ。部屋が快適なのは助かるよ」

「部屋だけじゃないよ。朝ごはんも作ってあげるし、夜は美味しいものを買ってきてあげる。一人暮らしなんてやめて、実家に戻ってこない? そもそも、私は最初から反対していて……」


 姉との関係が本当によくわからなくなってきた。少し中の良い姉弟じゃなかったのか?


 さすがに恋愛感情は抱いていないと思うけど少し異常だ。

 よくわからないからこそ、感情を逆なでるのは回避して落ち着かせよう。


「ちゃんと寝れるなら泊ってもいいけど、俺の部屋には何もなかったよね」

「勇樹が全部持って行ったからね。でも私の部屋にはちゃんとベッドがあるよ?」


 あるよ? じゃ、ないってッ!!

 何が言いたいんだ。もしかして「一緒に寝よ?」とか言うつもりか!?

 さすがにそれは断るッ! 姉弟ってのも理由の一つだけど、何より知り合ったばかりの人と同じ部屋で寝たくないのだ!


「姉さんは仕事があるんだし、ちゃんとベッドで寝て。俺はソファーでも大丈夫だから」

「え、でも」

「心配はいらないよ。こう見えても体は頑丈だからね」


 俺の言葉を聞いて、姉はうつむいて動きが止まる。

 しばらくしてから顔を見上げると口を開いた。


「本当に、帰らない?」

「とりあえず今晩は」

「ダメ。少なくとも母さんの件が解決するまでは一緒が良い」


 そもそも俺はこういった交渉事は苦手なのだ。一方的に好意を持たれているのも、さらに状況を悪化させている。非常に断りにくいのだ。


 拒否することはできず、無言でうなずいてしまった。


「やった! じゃぁ、部屋から薄い毛布を持ってくるね! あと枕も!」


 姉がつかんでいた腕を離すと、スキップしそうなほど軽い足取りで歩き出す。

 俺はその後姿を眺めながら痛む腕をさすっていた。


「あ、そうだ」


 姉は急に立ち止まって振り返る。

 ん? なんだろう?


「嘘は許さない、から」


 底冷えのするような声え言い放つ。

 背筋が凍って足が動かない。俺の意思より先に体が逆らってはいかないと必死に訴えかけていた。


 実家で生活する。姉から逃げ出さない。

 コウコクと頭を動かしながら、この二つを心に深く刻むことにした。

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