第7話ターニングポイント?

 シャワーをさっと浴びてから着替えてリビングへと向かう。テーブルには二人分の食事が並んでいた。焼いたサンマ。はじに大根おろしが、ちょこんとのっている。他にも白米、味噌汁、サラダがあり、古き良き和食といった感じだ。


「おかえり。さ、一緒に食べましょ」


 違和感は拭えないまま椅子に座ると、二人っきりの食事が始まった。

 思っていたよりお腹が減っていたようで、食が進む。久々に家庭料理を食べて胃が喜んでいるのを感じた。


「今回のタイムスリップはどうだったの?」


 無心で食事をすすめていると、彼女から質問がきた。


 今回のということは、すでに何度かタイムスリップしているのは間違いないだろう。単純に彼女が生まれただけではなく、タイムマシンの使用回数すら違う。ここまでくると、他にも大小さまざまなことが変わっていそうだ。


 俺が提示する情報は最小限にして、何が変わったのか整理したほうがいいな。


「ごく普通の日常を過ごしただけだったよ」

「今回も進展なし、か。いつになったら父さんが言っていた、ターニングポイントにたどり着くのかなぁ……」

「ターニングポイント?」


 思わず聞き返してしまった。


 俺一人の時は投げっぱなしだった親父が、彼女にそんな大事なことを伝えていたなんて……。やはりこの世界は、俺がいた世界とは違う。


 こんな重要な手掛かりが転がり込んでくるなんて、なんてツイているんだ!


「忘れたの? 父さんが死ぬ間際に、母さんが生き残るのに必要なポイントがいくつかあるって言ってたじゃない。大切なことなんだから覚えてなさいよ……」


 俺が知っているはずがない。

 もしかしたら彼女は頻繁に親父の見舞いに行っていて、そういった話を聞く機会があったのかもしれない。そうであれば、持っている情報量に圧倒的な差があるはずだ。やはり、情報を集める方針を選んで正解だった。


 俺は無言で彼女を見つめて言葉を待つ。沈黙は金なりというやつだ。


「まぁ、良いわ。とりあえず最初の高田君と仲良くなるを達成しないとね」


 母さんを狙っているイケメンから奪い取るのではなく、仲良くなる……だと……?

 俺が想像していたこととは真逆の目的に、箸を動かす手が止まってしまった。


「行儀が悪いから、ちゃんと箸をおきなさい」

「う、うん」


 なぜか体が素直に従えと信号を出した。そっと箸をおく。


「理由までは教えてくれなかったけど、高田君が闇落ち……だったけな? とりあえず、仲良くなれば母さんの生存確率が上がるみたい」


 ここにきて、男の闇落ちかよ……。

 あれか、親父と母さんが付き合って高田が闇落ちする流れなのか?

 それが巡り巡って、俺が生まれた後の母さんの事故につながると?


 もしそうなら確かに高田の動向には注意する必要があるし、仲が良ければ変化も察知しやすいだろう。だが、恋敵だぞ?


 好きな相手が別の男と付き合っている場面を見ないといけないなんて、普通に考えると地獄じゃないか。闇落ちを阻止するどころか悪化させるだけだろうし、一体、親父は何を求めていたんだ?


 せめて理由ぐらい教えてくれればいいのに。いや、待てよ。「詳しいことは知らない」と考えるべきかもしれない。


 母さんの死に高田が関わっていることまでは知っているが、具体的なことは何も把握できてない。


 もしそうであれば、このあいまいな情報しかない状況も理解できる。過去に戻って、何が起こったのか探ることが求められているのかもしれない。


「そうだね。次のタイムトラベルの時には、良い報告ができるように頑張るよ」

「期待しているね。次は5日後だから、それまでに作戦を考えようね」

「……そっかぁ。すぐにいけないのは、もどかしいね」

「しょうがないじゃない。壊れたら誰も直せないんだから、お父さんの言いつけは守らないと」


 タイムマシンも万能ではないということか。連続使用に耐えられるほど頑丈ではなく、5日のインターバルがないと耐えられないということかな?


 まぁ、ここら辺の判断は彼女に任せてゆっくりと理解していけばいいだろう。俺がしなければいけないことは、過去に行くことなのだから。

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