第6話うまく、弟として会話できただろうか?

 過去に行くことで現在が変わる可能性は高い。


 もしかしたら俺が生まれなかった世界ができていたかもしれないし、母さんではなく親父が死んでいた可能性もある。過去の改変とはそれほどのリスクを背負ったものなのだと理解すると同時に、いろいろな想像が膨らみ体の芯が冷えるほどの恐ろしさを感じた。


 過去にいた二日間。何気ない日常を過ごしていたのに、姉が誕生したのだ。もっと大きな出来事に関与したらどうなる?


 世界の歴史が大きく変わる。

 戦争を起こすことも、経済を衰退させることもできるだろう。


 俺は母さんを助けられればそれで十分だったけど、他人が知ったらどんな使い方をされるか分かったものじゃない。タイムマシンが本物だったからこそ、慎重に行動するべきなのだろう。


「ごめんね。ちょっと疲れていたみたい。これからどうするの?」


 まずは話を合わせて様子を見ることにする。


「過去から戻ってきたばかりの勇樹のために、ご飯を作ろうと思ってね。なに食べたい?」


 下着姿のまま、腰に手を当てて胸を強調するように言った。


 弟の前だから気にしないのだろうけど、俺は違う。子供のころから一緒に育った記憶なんてないし、少し似た他人にしか思えず、無駄にドキドキしてしまう。


 ちがう、ちがう。そうじゃない。考えるべきなのは別なことだ。


「結果は聞かないの?」


 タイムマシンの存在を知っているのであれば、気になるのは俺が何をしてきただろう。それを聞く前にご飯を作るなんて、彼女にとって過去に行くことの重要性は低いのだろうか? そんな疑問が脳裏をよぎる。


「この場に母さんや父さんがいないってことは、大きな進展はなかったってことでしょ? 食べながらゆっくり聞こうかなってね」


 確かに過去に行っても日常を過ごしただけ。大きな進展ははかった……て、お前がいるから大きな進展はあったよッ!!


 それにな、何度も過去に行って成果がなかったような言い方しやがって!

 俺は初めてのタイムトラベルを終えたばかりだぞ!

 いや、違う! そういうことが言いたいわけじゃなくて!!

 あー! もう! 展開が予想の斜め上に行き過ぎてて理解が追い付かない!

 30年以上生きて、初めて姉ができるって矛盾をどうやって飲み込めばいいんだよッ!!


 心を落ち着かせるために深く深呼吸をする。


 大丈夫、俺は冷静だ。姉が一人増えたぐらいで慌てるほど子供じゃないだろ。

 タイムマシンだろうが、過去改変だろうが、俺ならすべて受け入れられる。

 そう、何も問題ない。


「そうだね。ご飯食べながら話すことにするよ」


 少し冷静になったことで、思考が回りだした。


 この世界は俺が過ごしていた世界とは違う。ベースは同じだろうが、個人視点では別の歴史をたどっているはずだ。

 何が起こるか分からな今だからこそ、話を合わせつつ彼女から情報収集に専念したほうが良いだろう。


「じゃぁ、作ってくるからその間にシャワーでも浴びておいてね」

「わかったよ」


 うまく、弟として会話できただろうか?

 人生で初めての経験だからちょっと不安だったけど、彼女がキッチンに向かったのだから問題はなかったと思う。


 何となくだが、俺は元の世界に戻ることはほぼ不可能だろうと感じていたので、心のどこかで早く順応しないといけないなと、感じていた。

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