第3話落ち着け、落ち着くんだ俺……!!!!

「お前、誰だ?」


 見慣れない顔が映っていた。顔を動かしていろんな角度でじっくりと見る。俺が生まれたころの写真に写っていた親父に似てい――って、これ、親父の顔じゃないかッ!!!!


 過去に行ったと思っていたら、体が変わっていた。何が何だか全く分からない!!


 落ち着け、落ち着くんだ俺……!!!!


「コウキ! 早くきなさい!!」


 おばあちゃん、待ってくれ。もう、祖母とカッコつけられるほどの心の余裕はないんだ!!


 親父は何て言ってた? 思い出せ、これが元に戻る道につながっているかもしれない。


 えーっと、確か……。


『高校は自転車で行ける距離』


 違う! って、これは自分ではなく親父の記憶だった。なるほど、意識するとこの体の記憶は思い出せるのか。


 いや、今はそれどころじゃない!

 病院で話していた内容は、


『お前が生まれる前の過去に行くはずだが、そこら辺は上手いことごまかせるようになっている』


 上手いことって、こういうことかぁ!!

 どんな技術を使っているのか全く分からないけど、確かにこの時代にあった体なのは間違いない。


 けど、息子が親父の体を使いたいと思うか? はっきり言って気持ち悪いだけだ。さっさと現代に戻る方法を探して帰らないと。


『妻を……美紀を助けてやってくれ……』


 再び脳内に親父の声が呼び起こされた。

 そうだった。母さんを助ける約束をしてたんだ。


 過去が親父が言っていた過去なのであれば、確かに母さんを助けることはできる。


 なんせ病死とかではなく、交通事故だったのだから。数秒でいいからタイミングをずらせば何とかなる。だが、それは俺が生まれた後の話だ。それまでの道のりが長いな。なぜ、この日に戻ったのか——。


「イテッ!」


 頭がジンジンと痛む。おばあちゃんに叩かれたみたいだ。

 鏡越しから眉を吊り上げて、仁王立ちしている姿が見える。


「鏡を見たって、顔の形は変わらないんだから、さっさとご飯を食べなさい!!」

「はーい」


 いろいろと言いたいことはあるが、ぐっと我慢してのみこむ。まぁ、時間は十分すぎるほどあるから、しばらくは様子を見ても大丈夫だろう。


 久々に手作り料理を味わってから、制服に着替えて外に出る。

 

 体に眠っている記憶を呼び起こして、学校へと向かう。平成初期の町並みは懐かしい。バスを待っている人たちは新聞や雑誌を見ている人が多い。携帯電話を持っている人は見かけない。現代からすると異様な光景だ。


 ここが過去なんだなと、改めて思う。


 親父は本当にタイムマシンを完成させたのか。母さんのことを想もう執念が不可能を可能にさせた。この話だけなら、すごい偉業を成し遂げた美談なんだけど、どうして親父の体で人生をやり直さなければいけないんだ……。


 それに、記憶は親父のものもあるけど、意識は俺のまま。過去の親父はどうなってしまったのか?


 もしも、もしもだ。タイムスリップによって殺してしまったのであれば、目覚めが悪いどころじゃない。あぁ、もう、全然、思考がまとまらない。


 そんな状態のまま学校についてしまった。

 自転車を駐車場に停めてから、ようやく頭が回りだす。友達に会ったらどうしよう焦ってたけど、杞憂だったみたいだ。


 記憶によると親父は陰キャでボッチだったらしい。友達と呼べる存在はいないようなので、黙っていれば中身が入れ替わっていることには気づかれないだろう。


「ん?」


 誰かの視線を感じて後ろを振り返る。

 めちゃくちゃ美人な女性が、俺の方をじっと見ていた。背後から同級生と思われる女性に声をかけられると視線が外れて、教室に行ってしまう。


「なるほど、そういうことか……」


 親父と母さんの出会いは高校だったことを思い出した。

 先ほどの女性は母さん――美紀さんなのだろう。遠くから見つめるだけで話しかけないところから、付き合うどころか友達ですらないのだろう。


 好意はあるのか? いや、親父の記憶からするとむしろ嫌われているらしいぞ……。

 しかも、母さんは別に好きな人がいる……だと……!?

 学校中で噂されている……?


 どういうことだ! 高校を卒業前に付き合って、社会人になってから、結婚したんじゃなかったのかよ!?


 まずい、まずいぞ。崖っぷちじゃないかッ!!


 圧倒的に不利な状況から逆転を狙わないといけない。親父と母さんが付き合い始めたころの話なんて聞いたことないから、どうやって動けばいいか全く分からない。選択肢を間違えたらバッドエンド直行のギャルゲーをやっている気分だ。


 今だ俺の存在が維持できていることから、親父と母さんが付き合う可能性はゼロではない。


 情報が必要だ。それさえあれば、計画は立てられる。母さんの好みは知っているんだ。勝てる見込みはあるだろう。


 そんなことを考えながら、俺は教室へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る