炒飯

エリー.ファー

炒飯

 冷蔵庫に炒飯が残っていて、それを電子レンジで温める。

 それが朝ごはん兼昼ご飯となる。

 炒飯は結構簡単だ。

 パラパラにするのも簡単だ。

 誰もが直ぐに作ることのできる中華料理だろう。

 コツなんてあってないようなものだ。

 失敗できる人間がいるなら会ってみたいものである。

 私には好きな人がいた。

 その人は炒飯を作るのが上手な人だった。

 私も炒飯を作るのは上手いのだが、その人と比べると大したことはなかった。

 塩加減なのだと思う。あの伝説級のうま味調味料を入れることもなく、平気で私の作る炒飯を越えてくるのは、どことなくその手に、その舌に、そのフライパンに神が宿っているとしかおもえない程だった。

 炒飯づくりの上手い、私の好きな人は。

 たまに私の家に泊まった。

 ゲームをして、漫画を読んで、色々として。

 そして。

 炒飯を作った。

 炒飯以外を作ることができないのではないか、と思えるくらいに炒飯しか作らず、しかも味は全く同じだった。

 でも、飽きないのだ。

 炒飯に特化したその料理の才能に、私は虜になっていたのである。

 当然、私がご飯を作ることもある。その時、私はいつも炒飯以外を作った。野菜炒めやらハンバーグやら、酢豚やら、ピザやら、ナシゴレンやら、肉じゃがやら、チンジャオロースやら、味噌汁やら、ポテトサラダやら、ビーフストロガノフやら。

 元から作ることのできた料理もあるが、大抵が覚えたものだ。

 だから、その好きな人のおかげで少しずつ自分の料理スキルが上がったことは、とても感謝しているし。

 今はもう。

 好きじゃない人になってしまっても、そのことについては良い思い出としている。

 たまに私はその好きな人がどのように炒飯を作っていたかを思い出そうとする。けれど、意外と難しいのだ。自分が、どのように歩いてきたのか、自分にどのようなものを課していたのか、そんなことを指折り数えているような思いになるのだ。

 炒飯が食べられなくなった、ということはない。

 別にどこの誰が作った炒飯だろうが食べられる。

 でも。

 あの炒飯と、あの炒飯以外は全く違うし、あの炒飯に近づこうとするものも自分にはない。いや、あるのかもしれない。

 なんというか。

 もう、よく分からない。

 私は今現在好きな人のために炒飯を作る。

 炒飯は、美味しい。

 誰が作っても美味しい。

 誰が誰のために作っても美味しい。

 誰が誰のために作ったのか誰も知らなくても美味しい。

 もう二度と。

 美味しくない炒飯なんて作れない。

 作ろうとしたこともあったけれど、できなかった。

 炒飯はどんなに頑張っても失敗できないのだ。

 次こそは、次こそはと意気込んで焦がそうとするのに、炒飯はパラパラで光を反射して黄金に輝きながら、それはそれは素晴らしい香りを発するのだ。

 私はその炒飯の表面から立ち上る湯気を見ながら、少しだけ恨めしく思い、少しだけ思い出そうとしてやめる。

 いつか。

 いつかきっと私はチャーハンを作れなくなるだろう。

 精神的にも、身体的にも。

 その時には誰かに炒飯を作ってもらうことにしよう。

 私の舌は美味しい炒飯しか求めないから、作る側はきっと大変な思いをするだろうけど。

 でも。

 誰かに炒飯を作ってもらいたいのだ。

 そういう。

 そういう我儘を持ち続けていたいのだ。

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