エピローグ 終


 コンジ先生の告発に、みんな黙ってしまいました。


 スエノさんもしばらく黙っていましたが、ふいに顔を上げ、こう言ったのです。





 「今……、キノノウ様がおっしゃったことは、何一つ、証拠はありませんよね?」


 スエノさんが自信たっぷりの表情でそう言う。




 「たしかに……、そうですね。証拠はありません。……すべて、僕の推論ですね。」


 コンジ先生もあっさりとその事実を認めてしまいました。


 勝ち誇った顔でスエノさんがさらに続ける。




 「……仮に、それが事実だったとして、何が悪いとおっしゃるのですか? 実際に殺人を犯したのはあの人狼であり、その殺意も人狼が化けた人物の持っていた深層心理からなる『七つの大罪』……でしたよね? 何も責められる道理はありませんわ!」


 スエノさんは少し怒っている様子でした。




 「私が仮にそんなことを行ったとしても、それは……、殺されたあの方たちにも原因はあると思いますよ……。」


 「ほぉ? それはいったいどういうことだね?」


 ジェニー警視も疑問を呈した。




 「ビジューさんはあの有名な絵画『モナリザの最後の晩餐』に魅入られていましたわ……。そこを襲われたのですから、ある意味、本望でしょう……。」


 「スエノ……。なんて言い方を……。」


 「それに、シープはこともあろうに私を疑っていたなんて……。使用人の風上にも置けないわ!」


 スエノさんが声を荒げる。




 「ふむ……。ビジューさんやシープさんは自ら部屋を出て犠牲になったのだ……。ある意味、スエノさんの言う通り、自業自得な面もあるだろう。しかし、ママハッハさんやアネノさんはどうだというのです?」


 コンジ先生が質問というより、詰問をする。


 しかし、アレクサンダー神父……は、忘れていらっしゃる?




 「母……? 姉? ふん……。あんな人たち、死んで当然ですわ。」


 スエノさんも神父さんのことは無視して、語り出しました……。




 「私の……、生い立ちはキノノウ様やジェニー警視にもお話しましたね? メッシュはもちろん、ジニアスも知っていますよね……。私を育ててくれたのはあの義理の母ではない! ナニーなのよ!!」



 スエノさんの生い立ちの話は私もコンジ先生から聞いていました。


 彼女の実のお母さんは、パパデスさんの浮気相手で、スエノさんを産んだ際、亡くなってしまったと……。


 そして、他に身寄りがなかったため、パパデスさんが引き取ることになった。


 スエノさんは、ナニー・ウーバという女性が乳母として雇われ、面倒を見ていたのですが、ママハッハさん達からはまったく無視されて、挙句の果てに解雇されたのだと……。




 「たしか乳母のナニー・ウーバさんは解雇されたんでしたね……?」


 ジェニー警視がそう言うが早いか、スエノさんが否定する!




 「いいえ! 違うのよ……。ナニーは……。ナニーは……、殺されたのよ!」


 スエノさんが悲痛な声で叫んだ。


 



 「それは、いったいどういうことですか!? お嬢様!? あのナニーが?」


 これにはメッシュさんも驚いた様子です。




 「メッシュ……。おまえが知らなかったのも無理はないのです。私もナニーは解雇され、故郷に帰ったものだとばかり思っていました……。」


 スエノさんがそこで息を飲んだ。



 「だけど……! ある日、私は聞いてしまったのです! アネノと義母が……、ナニーを死なせてしまったって、話しているのを!!」




 シーンとみんなが黙り込んでしまっていました。


 そして、スエノさんが再び話し出しました。




 「アネノが義母にこう言っていました……。ナニーの死体は山に埋めてきた……と! そうよ! ナニーは解雇されたのではなく、アネノと義母がしつけと称して、行き過ぎた体罰を与えたため、死んでしまっていたのよっ!!」


 スエノさんは歯を食いしばって鬼のような形相をして泣いていました。




 「私は決して姉たちを許すことはできない! 死んで当然なのよ!!」


 「お嬢様……。」


 「スエノ……。」


 「スエノさん……。」




 みんながスエノさんに同情していた。


 しかし、そこまで聞いたコンジ先生がゆっくりとまた話し始めたのです。



 「ふむ……。なるほどね。そんな事情があったのは同情に値するね……。だが、君はそれだけの理由で人狼の正体をみんなに黙っていたわけではあるまい? ……そうだ。パパデスさんが亡くなり、ジジョーノさんも亡くなった……。その時点で人狼が捕まってしまえば、シンデレイラ家の莫大な財産は……、ママハッハさんとアネノさんにそのほとんどが相続されることになっていただろう……。」


 スエノさんがハッとした表情を浮かべ、コンジ先生を見たのです。




 「君は……、それが許せなかったのではないか? このままでは、ますますママハッハさんやアネノさんが好き勝手に生きていくことになる……とね。」


 「ええ! そうよ! アネノにも義母にも……、1ドルだって渡すものですかっ!! あんなヤツラに……、そんな権利はないのよ!! 全部、私のものよ! 私はずっと我慢してきたのよ!」


 スエノさんが叫んだ。


 その顔は欲に目がくらんだ『強欲』そのものでありました。




 「ええ……。そうですね。実際、あなたは莫大な財産を受け継がれた……。そして、あなたの犯した罪を法的に立証することは、できないでしょう……。」


 「キノノウくんの言うとおりだな……。スエノさん、あなたは自らの手を汚したわけじゃあない……。それに、証拠は……、ないのだからな。」


 「お嬢様……。あなたは、変わってしまわれたようですな……。」


 「スエノ……。」




 「な……、何が悪いのよ!? 私は、私の当然の権利を守っただけなのよ! たまたま目障りな姉や義母が死んだだけよ! 今、ジェニー警視やキノノウ様が言った通りよ! 私を裁くことなんて……、できないのよ!」


 スエノさんは勝ち誇ったように、そう宣言したのでした……。






 翌朝-。


 私たちは、麓の村を離れ、帰ることになりました。


 ジェニー警視もあとは現地の警察にまかせ、イギリスに帰国するようです。




 「待って! メッシュ! 辞めるってどういうことよ!?」


 「はい。お嬢様。私はパパデス様に直接雇用されていたのです。パパデス様がお亡くなりになられ、あっしももう一度、自分の店を持とうと思いやす。」


 「なぜ!? 今まで通り、館で料理人をしてくれてもいいじゃないの?」


 「申し訳ございません。お嬢様にお仕えする気は……、もうありませんでして……。」


 「メッシュ! あなた! この恩知らず!!」


 「パパデス様にいただいた恩はあれど、お嬢様にいただいた恩は……、もうお返ししましたぜ。」




 どうやら、メッシュさんはシンデレイラ家から出ていくようです。


 そして、もうひとり……。




 「ジニアス!! あなたまで!? 私を置いていくというの!?」


 「スエノ……。僕は……、君への気持ちは、失われたよ……。」


 「どうして!? あんなに愛し合ったじゃあないの!?」


 「……君は……、僕を利用したのだろう? そして、僕を人狼の盾にもした……。」


 「そ……、それは……!!」


 「すまない……。愛していたよ。本当に……。でも、もう、一緒にはいられない……。」


 ジニアスさんが振り向いて、去っていく……。





 「ジニアスゥウウウウーーーーーーッ!! ……どうして!? どうしてなのよ!? 私は大金持ちなのよ!?」



 スエノさんの悲痛な叫び声が周囲の山間に響き渡るようでした-。



 そんな彼女を残し、私たちは、車に乗り込み、イエローナイフ空港へ向かうのでした-。





 「コンジ先生……。ジニアスさんにスエノさんのこと、事前に話していたのですね?」


 「ああ。何も知らずにスエノさんと一緒になるのは……、アンフェアだとは思わないかい?」


 「でも……、こうなることはわかっていらっしゃったのでしょう? 悪いおヒトだわ。先生……。」


 「ふふ……。ジニアスさんは本当に純粋な人だからね……。ちょいと手助けしたまでさ!」



 ああ。コンジ先生はこういう方でした。


 でも、私も何も知らずに見せかけだけの幸せに踏み込んでいくのは、違うなぁとは思います。


 事実を知って、ジニアスさんがご自身で判断するのが一番なんでしょうね……。







 その後、『或雪山山荘』でたった一人残されたスエノさんが、どう暮らしたのかは……、私たちは知るすべはなかったのです。



 ただ、私はそれ以来、吹雪の山を見ると、人狼の凄惨な事件と、たった一人残された大金持ちになった彼女のことを思い出さずにはいられないのでした-。








 ~完~





 『化け物殺人事件~人狼伝説・狼の哭く夜~』は、これにて完結です。


 いかがだったでしょうか。


 お楽しみいただけたら嬉しく思います。




 ※名探偵「黄金探偵」コンジの第二作目にあたる、


 『化け物殺人事件 〜フランケンシュタインシュタインの化け物はプロメテウスに火を与えられたのか?〜』を公開いたしました。


 そちらもぜひ、よろしくお願いします(*´∀`*)b



 あっちゅまん




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【読者への挑戦状あり!】化け物殺人事件~人狼伝説・狼の哭く夜~ あっちゅまん @acchuman

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