エピローグ その3
「ビジューさんが地下室の絵画に誘われ出されたのは事実でしょうね……。その前に、ビジューさんはいったいいつ殺されたのでしたか?」
「キノノウくん……。それは、シープさんが殺される前だろう?」
「そうですね。じゃあ、ビジューさんはどこで殺されたのでしょうか?」
「うー……ん。やはり『右翼の塔』じゃあないのかい? その後、階段の間の地下の遺体安置室に運ばれたのではないか?」
「そう……。だが、あの時はみんな警戒していた。もう部屋の外に出ないように言っていたのだ。だが、なぜビジューさんは部屋の外に出たのだ?」
「誰か……に誘導されたフシがありますね……?」
「どういうことだい!? キノノウくん。」
「それはですね。ビジューさんは自分の部屋から出て、ある場所に行くように誘導されたのですよ。」
「ある場所ってどこなんです!?」
「うん。『右翼の塔』の地下室さ! 『モナリザの最後の晩餐』の絵画を餌にね?」
コンジ先生が言い放った。
「そうか! ビジューさんは異常なまでに『モナリザの最後の晩餐』を見たがっていた……。それで、一人で絵画を見に行ったのか!?」
「そのとおりです! ビジューさんはその絵画への欲望を餌に地下室へ行ったのでしょう……。では、その鍵はどうしたのでしょうか!?」
「そりゃ……、パパデスさんの部屋に置いてあったのだから、それを……使ったのだろう?」
「ええ……。ですが、こんな事件のあった時ではありますが、主(あるじ)の許可なく勝手にビジューさんが盗んだと?」
コンジ先生がさりげない疑問を投げかけました。
「うー……む……。それはわからんが、それしかないのじゃあないのかい?」
ジェニー警視もなんとなく答える。
「もちろん、そんなことをすれば美術商としての信用は失墜します。さすがのビジューさんもしないでしょう。」
「じゃあ、コンジ先生はビジューさんがどうやって鍵を手に入れたというのですか?」
「もちろん、シンデレイラ家の者に預けられたのだろう……。」
「ええーーっと……。あの時、生きていらっしゃったのは、奥方様とアネノお嬢様、……そして、スエノお嬢様……でしたね。」
みんながハッとして、スエノさんのほうを見る。
「じょ……、冗談ではありませんわ! 私がどうしてそんなこと……!」
スエノさんが即座にその視線を感じ、否定する。
「もちろん……。人狼に餌を与え、自分が食われないためにさ!?」
コンジ先生がズバッと言ってのけたそのポーズが何やら奇妙なポーズでしたが、誰もそこには触れませんでした。
「……ちょ! スエノさんはビジューさんが襲われるだろうことを見越して地下室の鍵をビジューさんに預けたってことですか!?」
「そうなんだよ。そう考えると辻褄が合うんだよ。そして、ビジューさんの遺体を人狼が遺体安置所に隠したのもスエノさんの示唆だったんだよ。」
「ええ!? そんな!? スエノお嬢様が?」
「ジジョーノさんの遺体を隠したことで、いなくなったジジョーノさんに疑いの目が向くことになった……。それを人狼も学習したのだろうな。だから、アレクサンダー神父の遺体も隠されたのだよ。」
「そんな心理誘導が行われていたなんて……!?」
「人狼がビジューさんに成り代わって僕らの追撃を逃れたのですが、あの時のことを考えると少し違和感がありませんか?」
「えぇ……。なんだろう? さっぱりわからないぞ? キノノウくん。」
ああ、コンジ先生、みなさんがわからないことをわかっていながら聞いていますね……。
スエノさんだけ青ざめた顔をしていましたが……。
「ビジューさんに早変わりしたのはいいのですけど、あの時ビジューさんが羽織っていたナイトガウンはどこに隠してあったというのでしょう?」
コンジ先生のこの質問に、ジェニー警視もメッシュさんも、虚をつかれた顔をしてらっしゃいました。
「たしかに……。言われてみればそうだな。ガウンの中は見えなかったが、ガウンそれ自体はどこにあったというのだ?」
「そう……。あの時、人狼は『左翼の塔』側の階段を2階へ上がっていった後、何食わぬ顔をしてビジューさんに化けてまた1階へ下りてきた。そして、その時にはすでにガウンを着ていました。……どこかの部屋に戻る時間の余裕はありませんでしたよね? ……そして、あの時、ビジューさんに続いて階下に降りてきたのは……。」
「スエノさん……、そしてジニアスくんだったか。」
「ジニアスさん。あのときはどうだったのですか?」
ここまで黙って聞いていたジニアスさんが申し訳無さそうに言う。
「僕は……、スエノが部屋から出て、ガウンを取ってくれって言ったのでそれを渡したんだ。スエノは……、ビジューさんにガウンを渡したんだ。キノノウさんに言われるまで、僕はそのことはすっかり忘れていたんだ。……だが、今、振り返ってみると……。スエノはビジューさんに人狼が化けていたことを知っていたのだね……?」
スエノさんは、歯をギリギリ言わせながら聞いていた。
「最後に、ママハッハさんやアネノさんが殺された事件だが、なぜ、『左翼の塔』の扉はあの神父の用意した『聖なる結界』なる『銀の粉』がふりかけられていなかったのでしょう?」
「そういえば、なぜなんでしょうな? あっしにはわかりませんぜ。」
「簡単です。あの扉に『銀の粉』を振りかけるには、神父が塔の中に入ってからじゃあないと振りかけられない……。神父は誰かに頼んだのだろう……。」
「誰に……、ハッ!?」
こうなってくると、スエノさんしかいませんね。
スエノさんもものすごい形相でコンジ先生を見ています。
認めたも同然でしょう。
「そうして『左翼の塔』側から入れば、ママハッハさんやアネノさん、ついでに神父も殺害できると人狼に示唆しておいたのでしょう……。もちろん、さりげない心理誘導ででしょうがね……。」
「むむぅ……。そんなことが……!?」
ジェニー警視も驚きを隠せないようです。
「しかし……。スエノさんとジニアスくんはその人狼に襲われているのだぞ!?」
「たしかにそうです。最後の日の明け方未明、スエノさんはジニアスさんと一緒にいるところで襲われました……。ですが、それは事故だったのです。」
「事故だって……!?」
コンジ先生はここで息を深く吐き、また話し始めるのでした。
「そう。スエノさんは人狼に襲われないように警戒していた……。だが、人狼がメッシュさんに化けたのは意外だったようですね? ねえ? ジニアスさん。」
そう言葉を投げかけられたジニアスさんは小さく頷き、話すのでした。
「そうです。あの時……。ジョシュアさんの声とともにメッシュさんの声もしたので、安心して警戒を解いてしまったんです。二人いれば人狼ではない……と。だが……!」
「メッシュさんに人狼は化けることができた。それはメッシュさんを襲って怪我をさせたときにその血を味わったから……でしょうね。ジョシュアと同じです。たとえ殺さなくても、その血を味わえば、その者に人狼は化けることができるのです。」
「ジニアスさんがその身を盾にして、人狼を部屋の中に入らないようくい止めて、その後も囮になって館の外まで逃げたのですね?」
「そうです。スエノもその後、すぐにみなさんに助けを呼んでくれたのですね……?」
「助けを……、そうですね。大声で呼ばれましたね。部屋の扉をワイヤーで中から開かないように固定させてから……でしたがね。」
スエノさんがコンジ先生をキッと睨みつけました。
ジニアスさんは、コンジ先生の言葉を聞き、ハッとした顔つきをしていました。
スエノさんがなにやら、いろいろ工作をしていたことが明らかにされてしまいました……。
ですが、いったい、なぜ? どうしてそんなことをする必要があったのでしょう?
そこは、まだ、わからないままでした-。
~続く~
エピローグはもう少し続きます。
※名探偵「黄金探偵」コンジの第二作目にあたる、
『化け物殺人事件 〜フランケンシュタインシュタインの化け物はプロメテウスに火を与えられたのか?〜』をエピローグ終了と同時に公開する予定です。
そちらもよろしくお願いします(*´∀`*)b
あっちゅまん
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