再会③
夕食の席でマチルドが口を開いた。
「今日ね、ジュールの古いお友達に会ったのよ。ヤンっていうの」
「マチルド!」
ジュールはあわてて声を潜めたがもう遅い。
ギヨームが皿から目を上げた。ヤン?
「そうよ、とってもハンサムなのよ」
「マチルド、およしなさい」
エレーヌがすかさず戒める。そんな言い方は下品ですよ。
「オ、オルレアンの、友人です。さっき偶然、偶然、出会って」
自分の声が変に言い訳がましく響くのを感じながらジュールは言った。
「そう」
エレーヌが微笑んだ。
「じゃ一度連れていらっしゃいな。あなたは友達を一人も連れてきたことがないんですもの」
「ええ、そのうち」
エレーヌに笑いかけながらジュールはギヨームの視線が自分に注がれているのを感じていた。先生に目を向けられない。やましいことなどないのに後ろめたい気がしてしまうのはなぜだろう。
「とっても仲が良さそうだったわ。ジュールなんか赤くなっちゃって」
マチルドがそう言った途端ジュールはナイフを取り落とした。アンヌがすばやく近寄って呆れた顔でナイフを拾った。
「ごめんなさい」
誰に謝っているのか分からなくなった。
部屋に戻り、ジュールはヤンの残した走り書きを見ていた。
「遊びにおいで」
さっきのヤンの笑顔が浮かんだ。心の中に懐かしい甘い気持ちが広がる。ジュールは指先をそっと唇に押し当てて目を閉じた。あの感触を思い出し、少し恍惚とする。
その時ドアをノックする音がした。
「私だ。いいかね?」
ジュールは唇から指を離した。
「はい」
ギヨームはそっと入ってきた。ジュールに少し笑いかけ、そのままゆっくりと窓辺に近寄った。ジュールはこっそりと紙切れをポケットの中に入れた。
「……思い出したよ。そう言えばヤンっていったね。確かブルターニュの生まれだったかな」
ギヨームが背を向けたまま呟いた。ジュールはドキリとして顔を上げた。ギヨームは窓に映るジュールの姿を見ている。
「オルレアンの友人、か」
ギヨームは小さく笑った。
「まあ、初恋の人ですとはエレーヌの前では言えないな」
「……そうですね」
ジュールはぎこちなく頷いた。
ギヨームは窓枠に手をかけながら向き直ると、穏やかな口調で尋ねた。
「教えておくれ。彼は……、ヤンとは、どんな人なんだい?」
「どんなひと……」
ジュールは思いを巡らすように小首をかしげた。それからゆっくりと答えた。
「……太陽のようなひとです」
明るくて、強くて、優しい。闇を切り開く朝日のような、照りつける夏の光のような、それでいて、穏やかな午後の陽だまりのような。──そんなひとです。
ギヨームは口ひげを撫でてフフフと笑った。
「そんなにのろけられちゃ、勝ち目はないな」
ジュールは目を上げた。ギヨームは微笑んでいる。
「会っておいで」
ギヨームが言った。
「でも、」
「ジュール、他人の気持ちを推し量る必要などないんだよ」
「え?」
「私に遠慮なんかするな。会って来なさい。そのポケットに入っているのは彼の住所だろう」
ギヨームは可笑しそうに笑った。
「恋をしている者を止めるわけにはいかんよ。私にもよく分かる」
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