遺跡の最奥にたどり着いたが、真実はいつでも残酷らしい。――8

 タイタンの拳が振り下ろされ、セラフィ様の周りにある、純白の光を放つ、方形の鉱石が砕け散った。


「――要石かなめいし、五ツ目、破壊」

「残りはひとつか。順調だな」

「残りのひとつを破壊すれば、わたしの封印は解かれます」


 私――アジ・ダハーカは、セラフィ様に「ええ」と返す。


 方形の鉱石は、セラフィ様を封印した者たちが用いた、『要石』と呼ばれる魔導具らしい。


 セラフィ様の話によれば、要石には封印した者たちの魂が込められており、モンスターを拘束する力と、どんな鉱物をも凌駕りょうがする強度を持っているそうだ。まったく、面倒なことをしてくれたものだ。


 だが、タイタンの拳ならば要石も砕ける。六つあった要石もひとつを残すだけだ。


 まもなくセラフィ様は解放され、我らが魔王軍は一層の力を手に入れるだろう。


「シルバたちは逃げたのでしょうか?」


 タイタンが最後の要石の破壊に取りかかるなか、セラフィ様が呟く。


 右のがニヤリと口端を上げた。


「これだけの兵力差だからな。逃げ出すのも無理はないと思うぜ」


 右のが振り返る。


 そこには、ズラリと並んだ四〇〇の歩兵と、五〇の弓兵、五〇の騎兵がいた。現在少年たちを追っている騎兵三〇と合わせ、『軍勢召喚』スキルの上限――五〇〇体の兵士を総動員した。


 四〇〇の歩兵は密集方陣を組み、広場の入り口を塞いでいる。少年と神獣たちが戻ってきても、突破するのは極めて困難だ。


 仮に突破されたとしても、そこには騎兵と弓兵の連係攻撃が待っている。こちらが負ける要素はないだろう。


 とは言え、油断はできないのだがな。


 少年と神獣たちは、四体の魔公をほふっている。限りなく不可能に近い魔公討伐を、四回も成し遂げているのだ。


 あの者たちならば、私の敷いた陣を崩すかもしれない。可能性は考慮せねば。


 だが、私がやるべきことは変わらない。セラフィ様を解放し、少年たちが戻ってくるのなら、迎え撃つだけ。


 私が冷静に判断したとき、地響きのような重い音がした。


「この音はなんでしょうか?」


 セラフィ様が訝しむ。


 地響きは次第しだいに大きくなり、振動を伴うようになってきた。


 少年たちがなにかしているのか?


 私は振り返り、大部屋の入り口に注意を向ける。


 来るなら来い。私たちのもとには決してたどり着かせん。確実に迎撃してみせよう。


 ズウゥゥン! と、一層大きな音が響いた。




 私たちの側面――大部屋の壁から。




 ビキッ! と壁にヒビが入る。


 そのときになって、私はようやく少年たちの狙いに思い至った。


 密集方陣で私は大部屋の入り口を塞いだ。


「正面突破ではなく、側面からの奇襲か!」

「せやあぁああああああああああっ!!」


 気づいたときには遅かった。ファーブニルの叫び声と、破砕の音が轟く。


 大部屋の壁が爆発するように砕け散り、砂煙が立ちこめた。


「行くよ、みんな!」

「「「「「「はい!」」」」」」


 砂煙のなかから、少年と神獣たちが飛び出してきた。

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