遺跡の最奥にたどり着いたが、真実はいつでも残酷らしい。――9

 出し抜いてやったぞ、アジ・ダハーカ!


 アジ・ダハーカの引きつった顔を目にして、俺は作戦の成功を悟った。


 この大部屋の入り口はひとつ。アジ・ダハーカは『軍勢召喚』により密集方陣を展開できる。それらを踏まえ、アジ・ダハーカは密集方陣で入り口を塞ぐだろうと俺は予想した。


 ならば、別の入り口を作ってそこから突入すればいい。


 転移の魔法円に仕組まれていたトラップによってバラバラにされた際、俺たちは合流するべく、それぞれでカムラ遺跡を探索した。そのため、カムラ遺跡の内部構造を把握していたんだ。


 だからこそ、この大部屋の位置も、どこから壁を破壊すればここに到達し、アジ・ダハーカたちの側面を突けるかもわかった。


 ララが、転移の魔法円のトラップを発動させてしまったからこそ、今回の作戦に繋がった。ララの失敗は、決して失敗ではなかったんだ。


 俺は、慌てて反転しようとしている『軍勢召喚』スキルの兵士たちを指さす。


「いまのうちに兵士たちを捕らえよう! クゥ、シュシュ!」

「『ブルースフィア』!」

「『コールドウインド』!」


 シュシュが水球を生み出して兵士たちを取り囲み、クゥが凍気を発生させて凍結。完成した氷の檻が、すべての兵士の動きを封じる。


「これで『軍勢召喚』スキルは役立たずだ」

「てめぇ! 『軍勢召喚』スキルの上限に気づいてやがったのか!」


 アジ・ダハーカの右の頭が舌打ちした。


 俺たちを追ってきた騎兵は、閉じ込めていくうちに出現をやめた。すなわち、上限に達したということだ。


 なら、いま喚び出されている兵士たちを捕らえれば、アジ・ダハーカは『軍勢召喚』を用いられなくなる。


 アジ・ダハーカは俺たちを迎撃するために最大数の兵士を投入したのだろうが、それが裏目に出たんだ。


「――敵ノ排除ヲ優先」

「いけません、タイタン! あなたは要石の破壊を続けてください!」


 こちらを見やったタイタンに対し、アジ・ダハーカの左の頭が叫ぶ。


「もし、あなたと私の両方が彼らに敗れれば、セラフィ様を解放することが叶わなくなります!」

「――シカシ……」

「簡単にやられるつもりはありません。私が時間稼ぎをし、あなたがセラフィ様を解放する。それが最善です」

「――承諾しょうだく


 タイタンが頷き、純白の光を放つ、方形の鉱石に拳を振り下ろしはじめた。


 アジ・ダハーカとタイタンの会話から察するに、あの鉱石が破壊されれば、セラフィさんの封印は解けてしまうのだろう。


 そうはさせない!


「ミア! 俺とともにアジ・ダハーカに突貫とっかん!」

「はい!」


 再びアジ・ダハーカと相対したことで『衰弱化』スキルが発動したのか、俺たちは疲労を得ている。


 それでも俺とミアは、力を振り絞って床を蹴った。できる限りの全力疾走でアジ・ダハーカへ向かう。


「させるかよ! 『フレイムバレット』!」


 アジ・ダハーカの右の頭が声を荒らげ、炎の弾丸で迎撃してきた。魔公だけあって、サシャのフレイムバレット並みに巨大。弾丸ではなく、もはや砲弾だ。


 けど、ダキニとは比べものにならない!


 おそらくアジ・ダハーカの能力は軍隊編成と指揮に特化しており、自身の戦闘力は、魔公のなかでは低いのだろう。


 なら、対処できる。


「ララ! 頼む!」

「『ブルースフィア』! 『擬獣化』!」


 俺の指示にララが応えた。


 俺とミアの周りにいくつもの水球が生まれ、それらが『擬獣化』スキルによって魚の群れに変わる。


 水魚すいぎょの群れが炎の砲弾に突っ込み、相殺した。


 無傷のままフレイムバレットを突破した俺とミアは、アジ・ダハーカ目がけてなお加速する。


 アジ・ダハーカの六つのまなこが、俺とミアを睨み付けた。


「「「来い! 迎え撃ってくれる!」」」


 アジ・ダハーカが右腕を振りかぶり、ぎ払うように振るう。


 丸太のごとき巨腕と、ナイフよりも鋭い爪が、俺とミアをろうと迫る。


 対し、俺とミアは前傾ぜんけいして体を沈めた。


 アジ・ダハーカの右腕が、寸前まで俺たちの上半身があった場所を薙ぎ払う。


 突風が俺とミアの髪をかき乱し、しかし、それだけで終わった。


「「「なにぃっ!?」」」


 アジ・ダハーカが瞠目する。


 俺とミアは、それぞれ右腕と左腕を引いて掌底しょうていを繰り出した。狙うのは、アジ・ダハーカの膝だ。


「「はあぁああああああああああっ!!」」


 腕力・速力・体重を乗せた一撃が、アジ・ダハーカの両膝に炸裂した。


 轟音。


 衝撃。


 震える大気。


 手のひらから、アジ・ダハーカの膝の骨が砕ける感触が伝わってきた。

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