遺跡の最奥にたどり着いたが、真実はいつでも残酷らしい。――7

 脳が焼き切れるほどに頭を働かせて――俺は突破口を見いだした。


「ララ! 『擬獣化』スキルだ!」


 ララの『擬獣化』スキルは、『物質・現象に一時的に思考と意識を与え、従える』スキル。


 先ほど『反射』スキルで防がれた魔法は直線の動きしかできなかったが、『擬獣化』スキルによって思考と意識を与えれば、かいくぐれるかもしれない。


 俺の指示に、ララがコクリと頷いた。


「『ライトニングアロー』! さらに『擬獣化』です~!」


 ララが再び雷の矢を放ち、スキルを行使する。


 放たれた無数の矢が、金色こんじきに輝く飛鳥ひちょうに姿を変えた。


『反射』スキルの盾が、雷の鳥を防ごうと動き回る。


 が、雷の鳥は盾の動きを読んだように身をひるがえした。


 盾の動きが一瞬鈍る。


 刹那せつな、別の雷鳥らいちょうが盾の守りをかいくぐり、騎兵に突撃を仕掛けた。


 ズガン! と雷鳴がとどろき、騎兵が黒炭と化す。


 ほかの雷鳥も盾を回避し、騎兵を次々と消し炭にしていった。


 騎兵の包囲にヒビが入る。だが、密集方陣はすぐそこまで来ている。


 だから、俺は決めた。


「ここは一旦いったん引いて態勢を整えよう!」

「「「「「「了解!」」」」」」


 俺たちは走り出し、雷鳥が入れた包囲のヒビに突撃する。


「逃がすな! 仕留めろ!」


 アジ・ダハーカの命に従い、騎兵たちが俺たちを迎え撃とうと突撃槍を構えた。


「「させない(ません)!」」


 突進してくるより早く、サシャとミアが騎兵たちに詰め寄り、蹴りと拳で打ち倒す。


『衰弱化』スキルと『鈍重化』スキルの影響を受けているとは思えないほど俊敏しゅんびんな動き。近接戦闘に長けているだけはある。


 俺たちはサシャとミアがこじ開けた突破口から、大部屋の外に飛び出した。


「追え!」


 アジ・ダハーカの指令が響き、背後から、騎兵たちが乗る馬が鳴らす、ひづめの音が追ってくる。


 走りながら俺は考えた。


 ただ逃げるわけにはいかない! 逃げてるあいだに反撃の策を練らないと!


 そのためにすべきことは、アジ・ダハーカとタイタンの、スキルの分析だ。相手の能力を把握すれば、対抗策も練りやすくなる。


 思考が結論に至ったとき、俺の体からだるさが消えた。『衰弱化』スキルの効果が切れたんだ。


「師匠、動きやすくなったよ!」

「息苦しさも消えました~!」


 どうやら六人も同じらしい。


 やはり、『衰弱化』スキルには制限があったのだろう。『海の悪魔の呪い』と偽って用いていた際、エイリピアの人々は苦しみ続けていたのだから、範囲制限の線が濃厚だ。


 範囲を狭めることで『衰弱化』スキルの効力は増す。だから、アジ・ダハーカから距離をとったことで、俺たちはだるさから解放されたんだ。


 この状態なら騎兵ともやり合えるはず! 『軍勢召喚』の効果も調べておこう!


「みんな! 騎兵たちと戦える!?」

「ん。大丈夫」

「す、少し、元気に、なりました、から!」


 六人が頷き返す。


 俺たちは立ち止まり反転。騎兵たちと相対あいたいした。


「『ウインドカッター』!」

「『アクアショット』!」


 ピピが風刃ふうじんを、シュシュが水弾すいだんを放つ。


 通路いっぱいに広がった風刃と水弾から逃れるすべは、騎兵たちにはない。しかし、『反射』スキルの盾が助けることはなかった。騎兵たちは風刃に斬り裂かれ、水弾に撃ち抜かれ、ドロリと溶けて影に戻っていく。


『反射』スキルは、タイタンの目の届く範囲でなければ使えないのだろう。おそらく、盾の動きが自動でなく手動なんだ。


 もうひとつ確かめておきたいのは――


「クゥ! 騎兵たちを閉じ込めることはできない!?」

「倒さなくていいの?」

「ああ! 動きを封じてほしい!」

「わかった! ララ、手伝って!」

「かしこまりました~!」


 クゥとララが、騎兵たちに両手を向けた。


「『ブルースフィア』!」

「『コールドウインド』!」


 ララが無数の水球を生み出し、それらを操って騎兵たちを取り囲む。


 続いてクゥが凍気とうきを放ち、水球を凍らせておりを作った。


 氷の檻に閉じ込められた騎兵は、動くことすら許されない。


「ナイス! その調子でドンドン閉じ込めてくれ!」

「「はい!」」


 ララとクゥの氷の檻が、騎兵たちを次々と閉じ込めていく。


 騎兵は後から後から現れてくるが、三〇体目を閉じ込めたとき、ついに出現は止まった。


 その結果に、俺は「なるほど」とつぶやく。


「『軍勢召喚』は有限か」

「喚び出せる数が限られているということですか?」


 尋ねてきたミアに、俺は首肯しゅこうする。


「うん。無限に喚び出せるなら、騎兵がいなくなることはない。アジ・ダハーカは、追っ手を延々えんえんと送り出せるはずだからね」

「そっか! だから倒すんじゃなくて閉じ込めたんだね!」

「倒してしまえば、新たに騎兵を喚び出す余裕を与えてしまいますから~」


 クゥとララが「ふむふむ」と頷いた。


 アジ・ダハーカとタイタンのスキルのうち、『衰弱化』スキル・『反射』スキル・『軍勢召喚』スキルの効果は把握した。これらの情報を踏まえ、俺たちがとれる手は……。


 俺は腕組みして思考の海に沈む。


 しばし考え、俺はまぶたを開けた。


「――思いついた」


 それは反撃の策。軍師アジ・ダハーカに一泡ひとあわ吹かせる策だ。

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