遺跡の最奥にたどり着いたが、真実はいつでも残酷らしい。――6

 絶句する俺に矢が迫る。


「『アイスニードル』!」


 俺が射貫いぬかれる寸前、クゥが放った無数の氷槍が、クロスボウの矢を撃ち落とした。


「ご主人さま、大丈夫!?」

「ああ! 助かった、クゥ!」


 クゥに答えながら俺は冷や汗をかく。


 クゥの助けがなかったら、いまの一撃で終わっていた! 本当にギリギリだった!


 ミスリルソードとミスリルアーマーが砕けたのは、タイタンが用いたスキルの影響だろう。『武装解除』の名から推測するに、おそらく、対象人物の武装を強制的に破壊するスキルだ。


 これまで戦ってきた魔公たちには、それぞれ特色があった。


 ドッペルゲンガーは、『変身へんしん』スキル・『分身ぶんしん』スキルを駆使したからに、


 デュラハンは、『絶対斬撃ぜったいざんげき』スキルによる攻撃力と、『隷属れいぞく』スキル・『軍勢強化ぐんぜいきょうか』スキルによる軍隊編成に、


 ヴリコラカスは、体術・魔法・『魂喰たましいぐらい』スキル・『邪眼じゃがん』スキルによる戦闘力に、


 ダキニは、魔法力と、『憑依ひょうい』スキルを利用した奸計かんけいけていた。


 アジ・ダハーカとタイタンにも得意分野があるらしい。


 アジ・ダハーカは、『軍勢召喚』スキルを軸とした戦術。


 タイタンは、『鈍重化』スキル・『武装解除』スキルによる妨害だ。


 言ってみれば、軍師と妨害工作員のタッグ。攻略するのは至難のわざだろう。


 それでも、俺たちがやられればセラフィさんが解放され、魔王軍の戦力がさらに増強されてしまう! なんとかして乗り越えないと!


 腹をくくり、俺は六人に指示を送った。


「まずは騎兵を倒し、挟撃されている状況を打破だはしよう!」

「ですが、『軍勢召喚』スキルによって、再び喚び出されるのではないでしょうか?」


 ミアが困り顔で指摘してくる。


 確かに、先ほど密集方陣に穴を開けた際も、『軍勢召喚』スキルによってすぐに補われてしまった。


 騎兵を倒しても補充されるのでは意味がない。むしろ悪手あくしゅだ。先に力尽きるのは、数の少ない俺たちのほうだろう。


 ミアは、消耗戦を危惧しているんだ。


 だが、俺にはわかっていた。アジ・ダハーカが騎兵を補充させるのは不可能だと。


「大丈夫。騎兵は倒せば倒した分だけ減るよ。密集方陣が邪魔をしてくれるから」


 アジ・ダハーカがこちらに騎兵を仕掛けたのは、密集方陣に穴が空いたときだった。


 考えてみれば当然だが、道がなければ騎兵はこちらに向かえない。そして、密集方陣が大部屋のはしから端まで敷かれている現状、騎兵が通る道はどこにもない。


 ミアがハッとする。


「わたしたちを追い詰めるための密集方陣が、騎兵の補充をさまたげる障害になっているのですね!」

「そういうこと」

「なら、安心して倒せるね、師匠!」


 サシャがファイティングポーズをとり、五人も眉を上げた強気な顔をした。


 俺はミスリルソードの切っ先で騎兵たちを示し、号令をかける。


「クゥ、ピピ、シュシュ、サシャ、ララ! 魔法発射!」

「「「「「はい!」」」」」


 五人が騎兵に手(翼)を向け、一斉に魔法を行使した。


「『アイスニードル』!」

「『ウインドカッター』!」

「『アクアショット』!」

「『フレイムバレット』!」

「『ライトニングアロー』!」


 氷の槍が、風の刃が、水の砲弾が、炎の弾丸が、雷の矢が、騎兵たちに向けて放たれる。


 神獣たちによる魔法の弾幕だ! 魔公が喚び出した軍勢と言えどひとたまりもないだろ!


 俺が確信したとき――


「――『反射はんしゃ』」


 タイタンが口を開き、その声に応えるように、六角形をした、半透明の盾が六枚、魔法の軌道上に現れた。


 盾は先行していたアイスニードルを防ぎ――防がれたアイスニードルが、突如とつじょとして向きを反転させる。


 俺たちは目を剥いた。


 動揺する俺たちの前で、反転したアイスニードルがフレイムバレットとぶつかり打ち消し合う。


 同じように、盾がアクアバレットを防いで反転させ、ライトニングアローを相殺そうさいした。


 盾は自由自在に動き、五人の魔法を防ぎ、反転させ、相殺させていく。


 最終的に、五人の魔法はすべて打ち消されてしまった。騎兵たちに被害はない。


「今度は攻撃を反射する盾を生み出すスキルか!」

「ご明察めいさつだ、少年」


 歯ぎしりする俺に、勝ち誇るでもなく淡々たんたんと、アジ・ダハーカが答えた。


 いまだ挟撃されている状況は打破できていない。密集方陣が俺たちを追い詰めるまで、あと一分もないだろう。


 なにか……なにか手はないか……っ!?

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