遺跡の最奥にたどり着いたが、真実はいつでも残酷らしい。――5

「どうしましょう、シルバさま!?」

「大丈夫だよ、ミア。打つ手はある」


 焦るミアをなだめつつ、俺は六人に伝える。


「密集方陣は強力だけど、味方が密集しすぎて、小回りが利かない欠点があるんだ」


 これも前世で得た知識だ。マンガやラノベの主人公たちも、密集方陣の弱点を突いて危機を脱していた。


「ならオレに任せて!」


 サシャは元『最強の冒険者』。俺の解説と、様々なクエストを達成してきた経験で、密集方陣の攻略法に気づいたのだろう。


 サシャが密集方陣を見据え、両手を向ける。


「『エクスプロージョン』!」


 密集方陣の中央、歩兵たちの頭上に、小さな火球が生まれた。


 ジジッと火花を散らし――火球が大爆発を起こす。


 生じた爆炎と衝撃波が歩兵たちをほうむり、密集方陣に大穴を開けた。


 味方が密集した状態では、大規模魔法を避けられないんだ。


 ピンチをくつがえした! チャンスだ!


「密集方陣は崩した! アジ・ダハーカとタイタンに突撃しよう!」

「「「「「「はい!」」」」」」


 ミスリルソードを掲げる俺に、六人が力強く返事する。


 俺たちは、サシャが開けた密集方陣の穴に向かって駆けだした。


「なかなかやるなあ、あいつら」

「問題ありません。次の手を打ちましょう」


 アジ・ダハーカの右の頭と左の頭の会話が聞こえる。


「行きなさい!」


 左の頭が声を張り上げ――モウモウと立ちこめる煙のなかから、黒ずくめの騎兵たちが突進してきた。


「「「「「「「なっ!?」」」」」」」


 きょを突かれた俺たちは、慌てて足を止める。


 そんな俺たちに、騎兵たちが突撃槍の切っ先を向けた。


 いつもなら対処できるけど、相手は『増強化』スキルで強化され、こちらは『衰弱化』スキルと『鈍重化』スキルで弱体化させられている! 対処も回避も厳しい!


 頭をフル回転させて急いで対策を練り、俺は叫んだ。


「シュシュ! みんなに『アクアアーマー』を!」

「は、はい! 『アクアアーマー』!」


 シュシュが魔法を行使し、俺たちの体を水の鎧が覆う。


 アクアアーマーは水の鎧をまとう魔法。まとった水は高速で流れており、相手の攻撃をいなすことができる。


 騎兵の突撃槍が迫り――アクアアーマーの高速水流によっていなされた。


 突撃槍をいなされた騎兵たちが、俺たちの脇を駆け抜けていく。


 騎兵による奇襲をしのぎ、俺は安堵あんどの息をついた。


「凌いだか。が、それも計算のうちだ」


 アジ・ダハーカに応えた様子はない。


 真ん中の頭が、騎兵たちに号令を送る。


「反転!」


 騎兵たちがUターンして、突撃槍を手放し、新たな武器――クロスボウを取り出す。


 俺は息をのんだ。


「『鉄槌てっつい金床かなとこ戦術』!」


 密集方陣は高い防御力を持つが、移動力が低いという欠点があった。それを補って考案されたのが『鉄槌と金床戦術』だ。


 敵の前面に密集方陣を敷き、別部隊に背面から襲わせて挟撃きょうげきする戦術。『鉄槌と金床』という名は、部隊の動きが、鍛冶師が材料を金床に置き、鉄槌で打つ様子に似ていたためにつけられたものだ。


 振り向いて確認すると、穴が空いた密集方陣は、後方から来た歩兵たちによって塞がれていた。アジ・ダハーカが、『軍勢召喚』スキルによって新たな歩兵を生み出したのだろう。


 前にも後ろにも逃げ道がない! 包囲された!


「撃て!!」


 アジ・ダハーカの指示が響き渡り、騎兵たちのクロスボウから矢が射られた。


「くっ」とうめき、俺も六人に指示を出す。


「防御!」

「「「「「「はい!」」」」」」


 六人が迎撃態勢をとった。俺もミスリルソードを盾のように構え、放たれた矢を防ごうとする。


「――『武装解除ぶそうかいじょ』」


 タイタンの低い声が聞こえたのはそのときだ。


 同時、俺が構えていたミスリルソードと、体を守るミスリルアーマーが、音を立てて砕け散った。

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