ピンチや失敗があったが、乗り越えればそれでいい。――8

「失敗しないやつなんていない。誰でも失敗する。失敗は当たり前。――失敗しないほうがおかしいんだ。だから、失敗したって大丈夫」


「け、けど! わたくしの所為せいで、またみなさんに迷惑をかけてしまうかもしれません! 先ほどは強制転移だけでしたが、もしかしたら、もっとひどいトラップがあるかもしれないのですよ!?」

「心配いらないよ」


 泣きそうな顔をするララに、俺は笑ってみせる。


「これでも俺たちは、数々の困難を乗り越えてきたんだ。トラップ程度にやられはしない。『使役』スキルの付随効果ふずいこうかもあるし、みんなで力を合わせれば、なんとかなる」


 クゥ、ミア、ピピ、シュシュ、サシャが、ニッコリと笑って頷いた。


 賛同してくれた五人をありがたく思いつつ、俺は頬をき、ララに打ち明ける。


「偉そうなことを言ってるけどさ? 俺は何度も失敗してきたんだ」

「旦那さまが……ですか?」

「ああ」と俺は苦笑した。

「ドッペルゲンガーにだまし討ちされたし、デュラハンにシュシュを支配されたし、フランチェッカさんのたくらみを止められずに、ヴリコラカスを誕生させてしまったし、ダキニには、まんまと騙されてしまったし」


 思い出すだけでも苦々しい経験だ。


 それでも――


「失敗しても、そのたびに立ち上がってきた。だから、ここにいるんだ」


 ララ。


「何度失敗しても、俺たちはララを責めない。何度でもやり直せばいいだけなんだから」

「旦那さま……!」


 ララが顔をクシャリと歪め、しかし、キッと眉を上げて、涙を拭う。


「わかりました! もう一度、挑戦してみます~!」

「ああ! 思い切っていこう!」


 ララが魔法円に歩み寄り、しゃがむ。


 ゆっくりと深呼吸をして――ララが両手を魔法円にかざした。


 魔法円の光が増す。


 ララはいままでになく真剣な表情をしていた。


 しばらくして、ララの眉がピクリと動く。


 同時、俺たちの足下に、転移の魔法円が出現した。トラップの発動だ。


 それでも俺は慌てない。


 大丈夫。バラバラになっても、もう一度集まればいいだけだ。この程度、困難のうちにも入らない。もっとひどい出来事を乗り越えてきたんだから。


「させません!!」


 ララが声を張り上げた。


 ララがグッと歯を食いしばる。


 俺たちの足下に出現した、転移の魔法円が薄れていく。魔法制御力で、ララがトラップを封じようとしているんだ。


「もう二度と! みなさんを離ればなれになんか、させません!」

「その意気です、ララさん!」

「ファイト」

「が、頑張って、ください!」


 顔中に汗を浮かべるララに、俺たちは声援を送る。


 やがて、転移の魔法円が完全に消え、


「これで終わりです!」


 見えない壁があった場所に、空間操作の魔法円が浮かんだ。


 パキィ……ン!


 ガラスが砕けるような音がして、空間操作の魔法円が散る。


 ふぅ、と、ララが汗を拭い、俺たちに笑顔を見せた。


「成功しました~!」


 俺は歩を進める。


 先ほどの反発力が嘘のように、易々やすやすと広間に入れた。


 クゥ、ミア、ピピ、シュシュ、サシャが満面の笑みで、


「「「「「ララ――――っ!!」」」」」


 ララに抱きついた。


「やったね、ララ!」

「ララのおかげで、オレたち合流できたよ!」

「グッジョブ」


 五人にもみくちゃにされながら、ララが目尻に涙を浮かべ、


「はい! やりました~!」


 ニッコリと笑顔を咲かせた。


 俺はララの頭を優しく撫でる。


「ありがとう、ララ。よく乗り越えたね」

「旦那さまとみなさんのおかげです~。わたくしひとりでは、きっとくじけていました~」

「そんなことない。ララは困難に打ち勝てる、強い子だよ」


 ララが「えへへへへ~」とはにかんだ。


「シルバさま! わたしたちも、ひとりぼっちで頑張りましたよ!」

「な、なでなで、してほしい、です!」

「うんうん。みんなも頑張ったね」


 苦笑しながら、俺は五人の頭も撫でる。


 五人とも、幸せそうに目を細めた。


 みんなが揃った。これでもう、怖いものなんてない。


「よし! 合流も果たしたし、探索を再開しようか!」

「「「「「「おおーっ!」」」」」」


 俺たちは拳を高々と突き上げた。

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