遺跡の最奥にたどり着いたが、真実はいつでも残酷らしい。――1

 七人で協力して、モンスターとトラップをクリアしていく。


 三〇分後。俺たちの前に、両開きの巨大な扉が姿を見せた。


 扉には幾何学模様きかがくもようが描かれている。この遺跡を封印していたものと、同じかたちだ。


「また封印ですね」

「だ、だとしたら、この先に、聖女様の遺品が、あるので、しょうか?」

「可能性は高いだろうね」


 ミアとシュシュにうなずき、俺はクゥに頼む。


「『魔法無効』スキルで封印を解いてくれる?」

「任せて!」


 クゥが扉に触れ、『魔法無効』スキルを発動させた。


 クゥの手から広がった揺らぎが、封印魔法の紋様もんようをかき消していく。


「開けるよ? 師匠」

「うん。よろしく、サシャ」


 サシャが両手を扉につき、「ふっ!」と押し込んだ。


 地響きのような音を立てて、扉が開いていく。


 扉の先は大部屋になっていた。目測で、縦一〇〇メートル、横一〇〇メートル、高さ二〇メートルの、だだっ広い方形の空間だ。


 大部屋はがらんどうになっていて、『遺品』と思しきものは見当たらない。


 ただ、奥の壁に異形があった。


 ひとの上半身と、魚の下半身を持つ女性だ。


 しかし、彼女は魚人族では断じてないだろう。あまりにも禍々まがまがしい姿なのだから。


 白い、癖のついたロングヘア。


 肌は青黒く、明らかに人族・亜人族のものではない。


 漆黒のうろこに覆われた魚体は大蛇だいじゃのように長く、とぐろを巻いている。


 両腕も鱗に覆われ、鋭い爪が生えていた。


 白黒モノトーンのブリオーをまとうその女性は、はりつけにされたように両腕を開き、まぶたを伏せている。


 彼女の周りには、純白の光を放つ、方形の鉱石があった。


「あの方はモンスターでしょうか~?」

「もしかして、海の、悪魔?」


 ララとピピが険しい顔つきをする。


 その昔、エイリス王国を襲った『海の悪魔』は、『聖女』ことセラフィさんの手によって、このカムラ遺跡で討伐されたそうだ。


 だとしたら、ピピの言うとおり、彼女は『海の悪魔』なのかもしれない。


「……近づいてみよう」


 セラフィさんの遺品は見当たらない。しかし、セラフィさんは、『海の悪魔』を退治した際に、現在『聖女の遺品』と呼ばれている魔導具を用いたらしい。


 あの白髪の女性が『海の悪魔』だとしたら、彼女の近くに遺品があるかもしれない。純白の光を放つ、あの鉱石が遺品である可能性もある。


 俺の提案に六人が頷き、俺たちは慎重に、白髪の女性に近づいてく。


「――このような場所に客人が訪れようとは、思ってもみませんでした」


 大部屋を三分の一ほど進んだところで、白髪の女性の唇が動いた。


 俺たちは警戒を一気に強め、各々おのおの、臨戦態勢をとる。


 白髪の女性のまぶたが開かれ、血のように赤い双眸そうぼうが、俺たちを捉えた。


「あなたたちはどのようにしてここにたどり着いたのでしょうか? 幾多いくたもの封印が施されていたはずですが」

「……封印なら解除しました」


 警戒を緩めず、俺は短く答える。


 白髪の女性が目を丸くした。


「驚きですね。あの魔法を解除できる者がいるとは思いませんでした」


 とどこおりなく会話ができている。白髪の女性は、人族・亜人族並みの知性を持っているようだ。


 仮にモンスターだとしたら、彼女は相当そうとう高レベルと思われる。それこそ、魔公のように。


「あなたは魔公ですか?」


 俺が尋ねると、耳慣れない単語だったのか、「魔公?」と首をかしげ、白髪の女性は答えた。




「わたしはセラフィ・アズリホープ。かつて大魔導師と呼ばれていたものです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る