ピンチや失敗があったが、乗り越えればそれでいい。――2

「お、お魚の群れが、キラキラ、してます!」

星屑ほしくずのなかを泳いでるみたいだね!」


 シュシュとサシャが、興奮した声を上げる。


「見てください! 珊瑚さんごがありますよ!」

「カラフル」

「イソギンチャクもキレイだよ!」


 ミア、ピピ、クゥも、キャイキャイとはしゃいでいた。


 海中を旅する機会なんて、そうそうない。神秘的な光景に、俺の心も躍っている。


 出発から一時間。特に問題なく、俺たちはルビア海を進んできた。


 海岸付近にあった、エイリピアの海中都市は、もう見えない。俺たちはすでに、エイリス王国の領海外に出ているだろう。


 となると、ここからが本番だろうな。


 領海の外は、ひとが立ち入れない領域だ。海中であることもあいまって、冒険者も手出しできない。


 つまり、モンスターが討伐されずに残っているということだ。


 モンスターとの戦闘は、きっと避けられない。


 俺の予想は的中した。


 俺たちの進行方向に、手足のない巨大な海竜が待ち構えている。


 エイリス王国までの船旅の際に戦った、Aランクモンスター、シーサーペントだ。


「どうしよう、ご主人さま?」

流石さすがに海中じゃ、オレたちは戦えないよ」


 クゥとサシャの言うとおり、海中はシーサーペントの独壇場どくだんじょうで、俺たちにとってはアウェイもアウェイだ。


 サシャの炎魔法は、海水温を急上昇させるため自滅してしまう。


 同じくクゥの氷魔法も、海水を凍らせてしまうため使えない。


 ミアの近接戦闘能力はまったくの無意味。


 ピピの風魔法も、水圧によって本来の効果を発揮できないだろう。


 もちろん、俺にできることはない。


 頼りになるのは、シュシュの水魔法くらいだ。


 圧倒的不利。


 さて、この状況でどう戦おうか?


「お任せください、旦那さま~。わたくしの力をお見せしますよ~!」


 俺が思考を回転させていると、ララがやる気満々の声で話しかけてきた。


「『アイスニードル』!」


 ララが行使したのは、クゥも得意とする氷魔法だ。


 俺はギョッとする。


「氷魔法を使ったら、海水が凍っちゃうよ!?」

「ご安心ください~。これでも、魔法の扱いには自信がありますから~」


 ララの言葉は嘘じゃなかった。


 十数本作り出された氷槍ひょうそうは、周りの海水を凍らせることなく浮かんでいる。


 冷気を完全にコントロールしている証拠。舌を巻くほどの魔法制御力だ。


『自分には魔法の才がある』とララが言っていたが、大言壮語たいげんそうごではまったくなかった。ララは魔法の扱いにおいて、クゥ、ピピ、シュシュ、サシャすら上回っている。


 おそらく、人族・亜人族の魔法使いで、ララに敵う者はいないだろう。


「さらに行きますよ~! 『擬獣化ぎじゅうか』です~!」


 海中に浮かぶ氷槍が輝き、そのかたちが変わっていく。


 飴細工あめざいくのようななめらかさで変形した氷槍は、やがてある生物のかたちをとった。


 流線型りゅうせんけいの体についの胸びれ、背びれと尾びれを持った、海の哺乳類――イルカだ。


 イルカ状になった氷槍が、シーサーペントに突撃した。


 氷槍を回避しようと、シーサーペントが浮上する。


 しかし、一本(匹?)の氷槍が、シーサーペントの逃げる方向に回り込んで阻止そしした。


 さらに、残りの氷槍がシーサーペントを取り囲み、逃げ道を完全に塞ぐ。


『GYYYYY……!?』


 シーサーペントが困惑したように鳴いた。


「わたくしのスキルは『擬獣化』。物質・現象に一時的に思考と意識を与え、従えるスキルです~」

「これまた規格外なスキルだなあ!」

「対象となる物質・現象は、『使用者わたくしが生み出したもの』に限られますけどね~」


 ララがそう補足するが、それでも充分じゅうぶん力なスキルだ。


 自分の魔法を『擬獣化』すれば、簡単に軍団を生み出せる。その一匹一匹が神獣の魔法なんだから、相手にとっては脅威きょうい以外のなにものでもない。


「みなさん、突撃です~!」


 ララの指示に応じ、氷の擬獣たちがシーサーペントに突っ込む。


 氷の擬獣たちがシーサーペントを次々とつらぬき、またたく間に凍り付かせた。


 断末魔だんまつますら許されなかったシーサーペントが粉々に砕け、跡形もなく消滅する。


「スゴいよ、ララ! ボクたちが戦ったときはあんなに苦戦したのに!」

「あ、あっさり、倒して、しまいましたね!」


 クゥとシュシュがキラキラと瞳を輝かせた。


 俺もふたりと同じ気持ちだ。こんなにも頼もしい護衛は、ほかにいない。


「心強いよ、ララ。この調子で、カムラ遺跡までよろしくね」

「かしこまりました~」


 ララが嬉しそうに答えた。

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