エイリス王国に向かったが、厄介事に見舞われているらしい。――9

 長い船旅を終え、ようやく俺たちはエイリピアに到着した。


 エイリピアの港では国王からの使者が待っており、小高い丘の上にあるエイリピア城に、俺たちを案内してくれた。


 そしていま、俺たちは謁見えっけんの間にて、エイリス王の前にひざまずいていた。


 エイリス王国国王、ネルール・リア・エイリス。


 長身痩躯ちょうしんそうく。銀のセミロングヘア。瞳の色は水色。


 腕と脚の鰭、脚の鱗は、髪と同じ銀色だ。


 歳は四七らしいが、二〇代後半と言われても疑わないくらい若々しい。


 王としては落ち着いた、白い衣装をまとっていた。


「お初にお目にかかります、エイリス王。ブルート王国から参りました、王国騎士団団長、シェイラ・ダ・リヴェルトと申します。こちらの七人は、私の部下であるクレリア・ダ・ブリンキット、冒険者であるシルバ、シルバが従える神獣、クゥ、ミア、ピピ、シュシュ、サシャでございます」

「長旅ご苦労だったね。それで、きみたちはどのような用件で来たのだろうか?」


 エイリス王の声色は、俺たちをねぎらうように柔らかい。


 しかし呪いの影響からか、顔色はすぐれず、肩で息をしていた。


御身おんみは『魔公誕生の儀式』をご存じでしょうか?」

「いや、知らないね。それはなにかな?」

「人柱と、人々の負の感情を用いて、魔公を生み出す儀式魔法です」

「そんなすべが……!?」


 エイリス王が瞠目どうもくする。


 首肯しゅこうを返し、シェイラさんが切り込む。


「魔王軍に加担かたんした者が、『魔公誕生の儀式』は、エイリス王国で編み出されたと証言されました。なにか思い当たることはございませんでしょうか?」


 俺は緊張からつばを飲んだ。


 エイリス王国と魔王軍が通じている可能性は、残念ながらいなめない。エイリス王はシェイラさんの質問に対し、どう答えるだろうか……?


 念のため、周りの衛兵の動きを警戒しながら、俺は答えを待つ。


 エイリス王が、「ふむ」と腕組みをした。


 しばらく黙考もっこうしたのち、エイリス王が口を開く。


「もしかしたら、『海の悪魔』が用いていたものかもしれない」


「「「「「「「「『海の悪魔』?」」」」」」」」と、俺たちは聞き返す。


「エイリス王国の伝承だ。五〇〇年前――魔王が現れる以前のこと。エイリス王国が、『海の悪魔』と呼ばれる化け物に襲われた。『海の悪魔』は無数のモンスターを従え、エイリス王国に甚大じんだいな被害をもたらしたとされている。あやしげなじゅつも用いていたらしく、今回の呪いが『海の悪魔』によるものだと考える者もいるよ」


 エイリス王が、真剣な顔つきで続けた。


「『海の悪魔』が従えたモンスターは、『海の悪魔』によって生み出されたらしい。もしかしたら、その方法が『魔公誕生の儀式』なのかもしれないね」


「なるほど」と、シェイラさんが頷く。


 エイリス王の答えが真実とは限らないが、『海の悪魔』の伝承が本当に存在するかは調べればわかるのだから、嘘をつく意味がない。信憑性しんぴょうせいはあるだろう。


 魔王軍が『海の悪魔』の術を再現していると考えれば説明がつく。その場合、エイリス王国は無実だ。


 流石に一〇〇パーセント信用するわけにはいかないが、『魔公誕生の儀式』の調査を進めれば、いずれ真相が明らかになるだろう。


 シェイラさんも俺と同じ考えのようで、エイリス王に依頼した。


「よろしければ、我々の調査にご協力願えないでしょうか?」

「そうしたいのはやまやまだが……いまは呪いの対応で手一杯でね。余裕がないんだ」


 エイリス王が申し訳なさそうに眉を下げた。


 俺は考える。


『魔公誕生の儀式』の調査はどうしても必要だ。


 しかし、エイリス王の言い分もわかる。国内が呪いで疲弊ひへいしている状態で、力を貸してほしいなんて無茶な話だ。


 なら、俺たちにできることは――


「エイリス王」

「なにかな、シルバ?」


 エイリス王が俺に目を向ける。


 俺はその視線を受けながら答えた。


「我々に、呪いを解く手伝いをさせていただけないでしょうか?」


 エイリス王が身を乗り出す。


「そんなことができるのかい!?」

「約束はできませんが、尽力するつもりです」

「わたしたちにお任せください、エイリス王。シルバさまは、これまで何体もの魔公を討ち取ってきました」

「オレすら超える最強の冒険者ですしね」


 ミアとサシャが、誇らしげに俺をアピールする。


 そこに、クレリアさんが加わった。


「シルバさんは、魔公デュラハンが暗躍あんやくしていたワンとフィナルの抗争や、魔公ダキニが企んでいたブロッセン王国による戦争を食い止めました。シルバさんたちなら、きっと解決してくれるでしょう」


 クゥ、ピピ、シュシュも、「「「うんうん」」」と賛同している。


 あんまり期待されると緊張するなあ。解決方法も見当がつかないし……まあ、エイリピアの人々を助けるためにも、全力でことには当たるけどさ。


 それにしても、クレリアさんの言動、神獣たちみんなに似てるなあ。俺への評価が異常に高いとことか、そっくりだよ。


「協力してくれるならありがたい。きみたちに、私たちを救ってほしい」

「「「「「「「「はっ!」」」」」」」

「呪いを解いてくれたら、きみたちの調査に力を貸すと約束しよう」


 エイリス王が柔和にゅうわな笑みを浮かべた。

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