エイリス王国に向かったが、厄介事に見舞われているらしい。――8

 シーサーペントとの戦いから二日後。ついに船は、エイリス王国に着いた。


 いま俺たちがいるのは『カンツェ』という街。エイリス王国にある小さな島。その島そのものを都市にした街だ。


 ブルート王国からの船は、大抵たいていカンツェから入国するらしい。


「パパ、あーん」

「こっちも美味しいよ、ご主人さま!」

「ちょ、ちょっと待って! みんなから一斉いっせいすすめられても、俺の口はひとつしかないから!」

「で、では、主さまが、あーんして、ください」


 俺たちの最終目的地は、エイリス王国の王都『エイリピア』。


 エイリス王国の中央の島にあるエイリピアに向かうには、また船に乗らなくてはならない。


 エイリピア行きの船が出航するまでに、俺たちは軽食をとることにしたんだけど……五人のスキンシップがとどまることを知らない。


 俺にあーんをしたり、あーんをせがんだりしてくる。


 嬉しいけど恥ずかしい複雑な気分だ。とりあえず、シェイラさんとクレリアさんの前では自重じちょうしてほしい。


「クレリアくん、きみも混ざってきなさい」

「でででできませんよ!」

「シルバくん、クレリアくんもあーんを希望しているよ?」

「だだだ団長!? け、結構ですからね、シルバさん!!」


 そのシェイラさんとクレリアさんは、またしてもドタバタしている。


 俺はクレリアさんにあーんしてあげればいいのだろうか? 真っ赤な顔で手をブンブン振っているから、やめたほうがいいのだろうか?


「そ、それより! 早く食事を終わらせないと、エイリピア行きの船にに合いませんよ!」

「逃げるつもりだろうけど無駄だよ、クレリアくん。まだ出航まで一時間ある。ここで関係を発展させようじゃないか」

「厚意が差し出がましいですぅうううううううううううううううううううう!!」


 クレリアさんが涙目になり、それを眺めてシェイラさんがニヤニヤしている。


 なんの話かわからないが、とりあえず、シェイラさんがクレリアさんで遊んでいることだけはわかった。お気の毒に、クレリアさん。


「あんたたち、エイリピアに行くのかい?」


 俺たちが騒々そうぞうしくしていると、店長の男性が尋ねてきた。


 店長の両の前腕にはひれがあり、両脚は鱗に覆われ、腕と同じく、下腿かたいにも鰭がある。魚人族の特徴だ。


 ちなみに、本来、魚人族の下半身は魚のものだが、魚人族だけに伝わる秘法で、脚に変えることができるらしい。


「はい」と俺が返すと、店長は表情を渋いものにする。


「だったら覚悟しといたほうがいい」

「覚悟、ですか?」


 不可解なアドバイスに俺が眉をひそめると、店長は硬い面持ちで頷いた。


「一ヶ月ほど前からなんだけどな? 呪われてるんだよ、エイリピアが」




     ○  ○  ○




 翌日の昼過ぎ。


 俺たちが乗った船は、まもなくエイリピアに着こうとしていた。


「みなさん、急に体がだるくなりませんでしたか?」


 クレリアさんが訴えてきたのは、そのときだ。


「激しい運動をしたあとのように、体が重いのですが……」

「俺は感じないですね。みんなはどう?」

「「「「「大丈夫」」」」

「私も平気だが、軽食屋の店長の話を考慮こうりょすると、クレリアくんの勘違いではないだろうね」


 シェイラさんが神妙しんみょうな面持ちをする。


「『住人・来訪者問わず、エイリピアにいる者は心身の衰弱に見舞みまわれる』――軽食屋の店長から聞いたとおりの症状だ」

「『能力値が低い者ほど衰弱の度合いが高い』という部分も本当みたいですね。俺やみんな、シェイラさんが無事なのは、経験値によって能力が高まっているからでしょう」


 五人とクレリアさんが頷いた。


 この心身の衰弱は、原因・治療法ともに不明らしい。だからこそ、呪いと言われているのだとか。


「『魔公誕生の儀式』が編み出されたのはエイリス王国ここ。そして、その王都が呪われている、か」


 シェイラさんの顔つきがより険しくなった。


「きな臭くなってきたね」

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