エイリス王国に向かったが、厄介事に見舞われているらしい。――7

 俺は『使役』スキルの付随効果のひとつ『感覚同期かんかくどうき』を用い、上空を舞うピピの視界を同期し、船と、その周囲の海を、俯瞰ふかんする。


 海中を泳ぐシーサーペントの影が、ピピの目には丸見えだった。


 影が、船を中心とした右斜め上に移動し、海面が揺らぐ。


 俺は叫んだ。


「シュシュ、三時の方向だ!」

「りょ、了解、です!」


 俺の指示したほうに体を向け、シュシュが水魔法を発動させる。


「『ブルースフィア』!」


 巨大な水球すいきゅうが宙に浮かび、直後、シーサーペントが浮上してきた。


 シーサーペントが、真上にあった水球に突っ込む。


 シーサーペントが目をいた。


 逃れようと頭を振るシーサーペントだが、シュシュがそれを許さない。水球でその動きを封じている。


「ミア、サシャ、頼む!」

「「任せて(ください)!」」


 ミアが『武具創造ぶぐそうぞう』スキルを行使した。


 銀色の輝きが甲板に広がり、フック付きの鎖がつながれた、ミスリル製の長大な棒が生み出される。


 大きさがけた違いだけど、そのかたちは釣り竿に似ていた。


「サシャさん!」

「うん!」


 ミアから受け取った釣り竿を、サシャが大きく振るった。


 鎖が宙に弧を描き、シーサーペントの首にグルグルと巻き付く。


 フックにより鎖が固定されたのを確認し、


「せいやっ!!」


 サシャが背筋をフルに使って仰け反った。


 さながらカツオの一本釣り。


 シーサーペントが海から引きずり出され、空中に浮かび上がる。


 シェイラさんと用心棒たちが、驚愕の光景に目を白黒させた。


 なにが起きたかわからないと言いたげな顔をしているシーサーペントを見上げ、俺はニッと笑う。


「海はお前の独壇場だ。けど、空中じゃなにもできないだろう?」


 シーサーペントが憎々にくにくしげに俺を睨み付ける。


 だが、もう遅い。


 俺は最後の指示を出した。


「クゥ、ピピ、トドメだ!」

「『アイスニードル』!」

「『ウインドカッター』!」


 船上から放たれた氷槍と、上空から放たれた、風のやいばとの挟み撃ち。


 巨体を氷槍がつらぬき、風の刃が切り刻む。


『GYYAAAAAAAAAAHHHH!!』


 穴だらけの細切れになったシーサーペントが、灰となって散っていく。


 船上が沈黙に包まれた。


「みんな、お疲れ様」

「「「「「うん!」」」」」


 五人が俺に抱きついてきて、


「「「「「「「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」」」」


 船上で喝采かっさいが爆発した。


「私たちがあれだけ苦戦したのに、あっさり倒してしまったね。王国騎士団団長の私が形無かたなしだよ」


 五人にもみくちゃにされている俺に、シェイラさんが溜息をしながら苦笑する。


「以前も凄まじかったけど、いまのシルバくんは次元が違う。度重たびかさなる戦いで成長したんだろうね」


 シェイラさんの賛辞がくすぐったくて、俺は頬を掻いた。


「みんなのおかげですよ」


 船上の喝采は止む気配がなかった。

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