エイリス王国に向かったが、厄介事に見舞われているらしい。――6

「その……俺が言っていい台詞せりふじゃないだろうけど……大丈夫、ピピ?」

「ん。少し、休んだし、平気」


 なにを謝られているのかわかってなさそうなピピに平身低頭へいしんていとうし、ピピの体に力が戻るまで小休止したのち、俺たちは船内を甲板に向けて走っていた。


 廊下を一気に駆け抜け、甲板に続くドアを勢いよく開ける。


 俺とピピの視界に、ドラゴンに似たモンスターが飛び込んできた。手足のない、体長五〇メートルは下らない巨獣だ。


「『シーサーペント』か!」


 海に生息するなかでもっとも強力な魔獣まじゅうシーサーペント。その危険度はAランク相当。


 先ほどの揺れは、このシーサーペントの仕業しわざだったらしい。


 シーサーペントが、短剣と見紛みまごう牙が並んだ、口を開ける。


 その口腔こうくうから、紅蓮ぐれんの炎が吐き出された。


 船を焼き尽くさんとばかりに、炎のブレスが迫る。


「『アクアウォール』!」


 即座にシュシュが反応し、水魔法を行使した。


 長城の如き水壁すいへきが船を取り囲み、炎のブレスを防ぐ。


「反撃だ!」

「「「「「「「「おう!」」」」」」」」


 ミスリルソードを握るシェイラさんが叫び、乗船していた用心棒たちが、野太い声で応じる。


「はあぁああああああああっ!!」


 シェイラさんが縦横無尽にミスリルソードを走らせる。その軌跡が、三日月の光線となって放たれた。


 シェイラさんが持つSランクスキル――剣による攻撃時、斬撃を射出する『剣閃けんせん』スキルによって生み出された剣閃だ。


 シェイラさんの二つ名ともなっている剣閃に加え、用心棒たちも矢を放つ。


「『アイスニードル』!」

「『フレイムバレット』!」


 さらに、クゥとサシャもそれぞれの魔法で攻撃。


 無数の剣閃が、何本もの矢が、おびただしい数の氷槍ひょうそうが、砲弾のごとき炎の弾丸が、シーサーペントを襲う。


 が、攻撃が届く前に、シーサーペントは海に潜ってしまった。


 シェイラさんたちが悔しげに、「「「「「「「く……っ」」」」」」」とうめく。


 俺はシェイラさんに駆け寄った。


「遅くなりました、シェイラさん!」

「むっ! 揺れに襲われたそうだけど、大丈夫だったかい、シルバくん?」

「え、ええ、まあ」


 俺は視線をらしながら茶を濁す。


 ピピとの一件を話せるはずがない。あれは墓場まで持っていこう。


 俺は話題を変えた。


「それより、戦況はどうですか?」

かんばしくないね」


 油断なく周囲を警戒しながら、シェイラさんが美麗びれいな顔立ちを渋そうにしかめる。


「シーサーペントがどこから出てくるか予想がつかないし、反撃してもすぐに海中に逃げられてしまう。おかげで防戦一方だよ。海のモンスターは厄介やっかいだと言うけれど、参ってしまうね」


 陸のモンスターを相手取るのと、海のモンスターを相手取るのとでは、勝手がまるで違う。


 相手が海を自由に泳ぎ回れるのに対し、こちらの行動範囲は船上に限定される。


 接近戦に関わる能力はまるきり意味を失い、遠距離攻撃か魔法に頼らざるを得ない。しかも、相手は海中に潜り、こちらの死角から襲いかかってくるんだ。どちらが不利かは言うまでもない。


『海のモンスターは、下手な魔人よりもよっぽど厄介』と危険視されるほどだ。


 シェイラさんから戦況を聞き、俺は考える。


 シーサーペントはどこから襲ってくるかわからない。海はシーサーペントの独壇場どくだんじょう


 ならば、


『みんな、それぞれやってほしいことがあるんだけど、いいかな?』

『『『『『もちろん!』』』』』


『使役』スキルの付随効果ふずいこうかのひとつ『意思疎通いしそつう』による念話ねんわで、俺は五人に作戦を伝える。


『よし! 作戦開始!』

『『『『『はい!』』』』


 五人が力強く返事して、ピピが上空に舞い上がった。

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