エイリス王国に向かったが、厄介事に見舞われているらしい。――4

 部屋にこもりっぱなしでは運動不足になってしまう。


 そこで翌日、俺たちは船内を散歩することにした。


 突如とつじょとして大きな揺れに襲われたのは、廊下を歩いていたときだ。


「おわっ!?」

「う?」


 バランスを保てなかった俺は、ピピを巻き込んで廊下をゴロゴロと転がり、どこかのドアを破って室内に突っ込んだ。


 背中にボフンとクッションの感覚。おそらく、ここはリネン室なのだろう。


「あ痛たた……ゴメン、ピピ。大丈――」


 俺の言葉が最後までつむがれることはなかった。


 俺の目の前に、ピピの股間があったからだ。


「ん。平気」


 ピピの返事は、俺の腹あたりから聞こえた。どうやら、体の向きを逆さまにして、俺はピピの股間に、ピピは俺の腹部に顔を埋めているようだ。


 な、なんでこんな格好に……!


 いつものことながら、凄まじくラッキースケベな状況だ。俺は淫魔いんまにでも呪われているのだろうか?


「シルバさま! ピピさん! 大丈夫ですか!?」


 クゥ、ミア、シュシュ、サシャが駆け寄ってくる足音がする。


 俺は危惧きぐした。


 俺はともかく、ピピの恥ずかしい格好を、みんなに見られるわけにはいかない!


 即断し、俺は対応する。


「だ、大丈夫! みんなは揺れの原因を探りに向かってくれ!!」


 四人が来るまでに、俺は大声で指示する。


 ピピの口から「ひゃうっ!」と声が漏れるが、申し訳ないけれどガマンしてほしい。


「け、けど、主さま……!」

「俺とピピもすぐに向かう! この船がモンスターに襲われている可能性もある! そうだった場合、みんなに船を守ってほしいんだ!」

「……わかったよ、師匠! 必ず合流してね!」


 躊躇っているように聞こえたが、サシャがそう返事をした。


 四人の足音が遠ざかっていき、俺はほっと胸を撫で下ろす。


 改めて、俺はピピに謝った。


「ゴメン、ピピ」

「大丈夫。ちょっと、お股、ジンジンしただけ」


 そのジンジンしたのがマズいんだけどね。


 冷や汗を掻きつつ、俺は現状への対処をはじめる。


「と、とにかく、抜け出そうか」

「ん」


 まずは両腕を自由にしないといけない。先ほどから、なにかに拘束されたかのように、両腕が上手く動かせないんだ。


 拘束から逃れようと両腕を動かし、


「んひゃっ!?」


 ピピが鼻にかかった声を上げて、ピタリと止めた。


「ど、どうしたの、ピピ?」

「おっぱい、気持ちいい」

「…………は?」


 言葉の意味がわからない。


 数秒かけてピピの言葉を咀嚼そしゃくし――さあっと血の気が引いた。


 両手から、優しい温もりと、柔らかな感触が伝わってきている。


 ま、まさか、俺の両腕が動かしづらいのって……


 そのとき再び船が揺れ、反射的に俺の指が動き、


「はうっ❤!?」


 今度は明らかに甘ったるい声をピピが出した。


 どうやら俺の予想は、最悪なことに当たっていたらしい。


 これ、ピピの胸だぁあああああああああああああああああああああああ!!


 俺の両腕を拘束しているのは、ピピが着ているシャツ。


 そう。俺は、ピピの胸元に両腕を突っ込んでいたんだ。

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