エイリス王国に向かったが、厄介事に見舞われているらしい。――3

「あ、上がり、です!」

「はうぅ……っ」


 手札がなくなったシュシュが万歳ばんざいをして、クゥが涙目になる。


 残りのプレイヤーは俺とクゥだけ。ババ抜きは最終局面を迎えていた。


 これまでの戦いを振り返り、俺は思う。


 みんな、ババ抜き苦手すぎ!


 五人はとにかく顔に出ていた。


 ジョーカーを引いたときは、この世の終わりみたいに落ち込むし、ジョーカーを引かれたときは、くじ引きで一等を当てた子どもみたいに喜ぶ。


 しかも、本人も周りも、その表情の変化にまったく気づかない。気づいているのは俺だけ。五人はひたすら一生懸命に勝負をしていた。


 そんな五人を差し置いて上がるのが申し訳なくて、結局俺は最後まで残ってしまった。


「じゃ、じゃあ、どうぞ、ご主人さま!」

「う、うん」


 俺との一騎打ちに、クゥが緊張の面持おももちで手札を差し出す。


 クゥの手札は残り二枚。俺の手札は残り一枚。


 俺の番で勝負が決するかもしれないからか、ミア、ピピ、シュシュ、サシャが、固唾かたずをのんでいた。


 俺は右のカードに手を伸ばす。

 クゥがパアッと顔を輝かせ、耳をピンと立て、尻尾をブンブンと振る。


 俺は左のカードに手を移した。

 クゥがシュンとした顔をして、耳をヘニャンと伏せ、尻尾をダラリと垂れさせる。


 俺は右のカードに手を戻した。

 クゥがパアッと顔を輝かせ、耳をピンと立て、尻尾をブンブンと振る。


 ジョーカー、絶対こっち――――っ!!


 筒抜けのダダ漏れだ。左のカードを引けば、俺の勝ちが決まる。


 けど、俺が上がれば、クゥ、メチャクチャ落ち込むだろうなあ……上がりにくいなあ……。


 悩んだすえ、俺は右のカードを引いた。


 周りで見ている四人が、「「「「おおっ!」」」」といた。


「クゥさんが生き残りました!」

「まだ、決まらない」

「よーしっ! 今度はこっちの番だよ!」


 ミアとピピが興奮したように鼻息を荒くして、クゥが強気な笑顔を見せる。


 クゥの道化どうけ感がスゴいけど、それすら可愛いと思ってしまう俺は、重症かもしれない。


 クゥが俺の手札をにらみ、意を決したように「えいっ!」と引き抜いた。


 クゥが引いたのはハートのクイーン。俺の手に残ったのはジョーカー。


 自分の引いたカードを目にして、クゥが目を見開き、破顔はがんする。


「やった――っ! 上がりだ――――っ!!」

「「「「おお――――っ!!」」」」


 ミア、ピピ、シュシュ、サシャも大盛り上がり。俺だけが苦笑いしていた。


 負けちゃったけど、クゥが嬉しそうだから、まあいいか。


「じゃあ、師匠には罰ゲームだね!」

「あははは……お手柔らかに」


 降参を表すために両手を挙げる。


 罰ゲームの内容を考えているのか、五人が腕組みして「「「「「うーん」」」」」とうなり、


「で、では、あたしを、抱きしめて、ください!」

「へ?」


 シュシュが両腕を広げながら、俺に命じてきた。


「あ、あたしたちからは、いっぱい、ハグしますけど、主さまからは、あまり、ないです、から!」


 ポカンとする俺に、シュシュが広げた両腕を上下させる。まるで、早く早くとせがんでいるみたいだ。


 たしかに、俺から五人を抱きしめることはそうない。だからこそ、この罰ゲームは緊張する。


 けど、負けたからには従わないといけないよねえ。


「じゃ、じゃあ、行くよ?」


 覚悟を決め、震える腕でシュシュを抱きしめる。


 シュシュは「えへへへへー」と心底嬉しそうに、俺の胸に頭をグリグリ押しつけてきた。


 自分の顔が熱を帯びるのがわかる。


 心臓が高速でビートを刻み、胸がキュンキュンとうずいた。


 かかか可愛い! 俺の匂いをクンクンいでくるのも、恥ずかしいけど愛らしすぎる! 俺、もだにしてしまいそうだ!


「そ、そろそろいいかな?」

「あ、あと、一時間、です」

「理不尽すぎるくらい長い!?」


 悲鳴のような俺の声を聞いたからか、名残惜なごりおしそうにしながらも、シュシュが体を離した。


 シュシュの体温がいまだに残っている。


 鼓動がちっとも収まってくれない。


 そんななか、クゥ、ミア、ピピ、サシャが、シュパッと手を挙げた。


「ボクもハグで!」

「わたしもお願いします!」

「ピピも」

「右に同じく!」

「うん。なんとなくこうなると思ってた」


 俺は観念の溜息をつく。


 結局、シュシュと同じように、俺は四人にハグをした。


 クゥもミアもピピもサシャも、至極しごく幸せそうに目を細め、スリスリと頬ずりしてきた。


 愛くるしい四人を抱きしめながら、俺は思った。


 あれ? これ、罰ゲームっていうかご褒美じゃない?

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