ずっと踊らされていたが、俺に屈するつもりはない。――11

 操られたひとたちと、みんなが戦っている。


 ミアが衛兵の剣を捌いている。


 シュシュが水魔法で壁を作っている。


 ピピが『神速』で相手を攪乱かくらんしている。


 クゥが住民たちの魔法を無効化している。


 師匠がみんなに指示を出しながら、衛兵と剣を交えている。


 ただひとり、オレだけがうなだれていた。


 立ち上がれない。オレと友達になってくれたリラがいないとわかってから、気力が欠片かけらも湧かないんだ。


 そんなオレに敵を近づけないためか、みんなはさっきから防戦に徹している。攻勢にでなければ、いずれ押し切られてしまうだろう。


 オレの存在が、みんなに迷惑をかけている。情けなくて、申し訳なくて、涙がこぼれた。


 こんなオレなんて、役立たずのオレなんて、いらない。


「師匠……オレのことは、いいよ」


 だからオレはお願いする。


「オレなんか放っておいて、戦って?」

「イヤだ」


 師匠の返事は早かった。


 師匠の優しさが、いまは痛い。


「オレ、もうダメなんだ……戦えないオレなんて、見捨ててよ」

「絶対イヤだ。死んでもイヤだ」


 どうして師匠? オレ、イヤだよ。オレの所為せいでみんなが傷つくなんて、考えるだけで胸が張り裂けちゃうよ。


 なのにどうして、オレなんかを守るの?


「どうして!?」


 悲しくて、苦しくて、ツラくて、オレは思わず叫んでいた。


 師匠が衛兵の剣を弾きながら答える。


「サシャは、俺のために転生してくれただろ」


 衛兵を蹴り飛ばしながら答える。


「俺のために、冒険者になって努力してくれただろ」


 師匠が声を張り上げた。


「そんなサシャを、見捨てられるはずないだろ!!」


 師匠が、ため込んでいたものを吐き出すように続ける。


「いいか、サシャ! もう二度と、自分を放っておいてなんて言うな! 見捨ててなんて言うな! 俺は許さないぞ! 大切な仲間を切り捨てろだなんて、たとえ本人サシャにだって言わせてたまるか!!」


 師匠の言葉に、オレは息をのんだ。


 一転して、師匠が優しく語りかける。


「俺にだって、心が折れたことがある。俺は、サシャが思うほど強くないんだ」


 それでも、


「そんな俺を、クゥが救ってくれた。そしていまは、ミアも、ピピも、シュシュも、もちろんサシャも支えてくれている――ひとは誰でも折れる。けど、支えてくれるひとは、たしかにいるんだ」


 だから、


「俺はサシャを守る。支える。どんなことがあっても見捨てない」


 にじむ視界に映る師匠の背中は、とても大きかった。


 オレは自分に問いかける。


 いいの? 守ってくれるこのひとを失っても。


 いいの? 支えてくれるみんなを失っても。


「いいわけ……ない!」


 思い出して! オレはなんのために転生した? なんのために努力してきた?


 師匠を助けるためじゃないか!!


 折れてる場合じゃない! 悲しんでる場合じゃない! いま戦わないと、オレはきっと死んでも悔やむ!


「リラは、もういない……けど、オレにはみんながいる。師匠がいる」


 立ち上がれ! 拳を握れ! 心に火をべろ!


 叫ぶ。


「これ以上、大切なひとを失わせたりしない!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る