ずっと踊らされていたが、俺に屈するつもりはない。――12

 相手の攻勢は苛烈かれつを極めていた。


 次から次に殺到してくる衛兵たち。


 住民たちが降らせる魔法の雨。


 ひとつ気を抜けば、瞬く間にやられてしまう状況。


「……負けてたまるか」


 それでも俺は、歯を食いしばる。


 絶対に負けない! 誰も失わせない! どんな絶望にも、屈してなんかやらない!!


 衛兵たちが一斉に突進してきた。


 突き出された剣が、刃の壁となって俺を襲う。


「ああぁああああああああああああああああああっ!!」


 叫び声がとどろいた。


 俺に迫っていた刃の壁が崩れる。衛兵たちが、横向きに吹っ飛んでいく。


 俺は強張っていた表情を笑みに変えた。


 衛兵たちを吹き飛ばしたのが、


「サシャ!」


 再起したサシャだったからだ。


「遅れてゴメン、師匠! オレはもう、うつむかない!」

「ああ! ダキニを倒そう!」


 ダキニが、ひどく不愉快そうに顔をしかめる。


「息を吹き返したじゃと? つまらぬ……まったくつまらぬのう! 主らにあつらえ向きなのは絶望じゃ!」


 ダキニが腕を振り、吹き飛ばされた衛兵たちの代わりに、別の衛兵たちが剣を振るってきた。


 サシャが加わって総出で応戦するも、状況が好転したわけではない。


 衛兵たちはまとまって攻め込んでくるし、周りからは、住民たちが走り回りながら魔法を撃ち込んでくる。


 操られたひとたちに罪はない。俺たちが、彼らを傷つけることはできない。『支配』スキルから解放する手立ても見つからない。


 しかも、ここにいるひとたちの攻勢を凌いでも、ブロセルクの住民は全員ダキニに操られているんだ。多勢に無勢もはなはだしい。


 こんなの無理ゲーだ。攻略の糸口をつかめない。


 けど、諦めるわけにはいかないんだ!!


 迫ってくる衛兵のグループに、俺は逆に突っ込む。


 振るわれる剣を捌き、回し蹴りを見舞った。


 グループのうちの数人を蹴り飛ばし――俺は気づいた。


 蹴り飛ばした衛兵たちの向こうに、住民の姿がある。


 現在、俺は残りの衛兵たちに囲まれている。ここで魔法を放たれたら、かわす手立てがない。


「くっ!」


 咄嗟にミスリルソードの腹を見せるように構え、放たれるであろう魔法の盾にする。


 そこで不可解な出来事が起きた。


 住民が俺に魔法を放たず、走り去っていったんだ。


 なぜだ? 俺を倒す絶好のチャンスだったのに。


 湧き上がった疑問に意識を囚われたところに、衛兵たちが斬りかかってくる。


 我に返った俺は、剣戟を対処しようと振り返り、


「シルバさま、大丈夫ですか!」


 それより早く、ミアが助けにきてくれた。


 一瞬で無数の掌底しょうていを繰り出し、斬りかかってきた衛兵たちを突き飛ばす。


「ありがとう!」とミアに礼を言いながら、意識を戦闘に戻す。


 しかし、頭の片隅には先ほどの疑問が残っていた。


 どうしてあのとき、住民は魔法を撃たなかった? 撃てない理由があったのか?


 その疑問が引き金となり、気になる点が浮かびだす。


 俺たちから攻撃されないためか、住民たちは一時も足を止めずに動き回っている。


 でも、よく考えたらおかしい。操られて無理矢理戦わされている住民たちを、攻撃するつもりなんて俺たちにはない。


 それはダキニもわかっているはずなんだ。なにしろやつは、俺たちが傷つけられないと知って、リラを人質にとっているんだから。


 だとしたら、住民たちに俺たちの攻撃を警戒する必要なんてない。動き回っているのには、なにか別の理由があるんじゃないだろうか?


「はあっ!」


 俺が考えるなか、撃ち込まれた魔法に、クゥが『魔法無効』スキルの揺らぎを放つ。


 揺らぎが魔法をかき消した。


 魔法を放った住民は、走るままにその場を離れていく。


 住民のその行動が、俺にを閃かせた。


 もしかして、俺たちはずっと勘違いしていたんじゃないか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る