ずっと踊らされていたが、俺に屈するつもりはない。――7

 ブロセルク城の廊下を、操られた人々が巡回している。


「えい」


 そのひとたちを、『神速』スキルを用いたピピが、気絶させて無力化。


 俺たちは気づかれないよう、城内を進んでいた。


 人々は謁見の間を中心に動いているようだ。ブロッセン王は、謁見の間から指示を出しているのだろう。


「衛兵たちが扉を守っているよ、ご主人さま」

「何人いる?」

「六人だね」


 クゥが鼻をヒクヒクさせて、相手側の戦力を確認。


 この角を曲がると謁見の間だ。


「みんな、準備はいい?」


 五人とリラが頷く。


「よし――ミア、ピピ、頼む」

「はい!」

「ん!」


 ミアとピピが曲がり角から飛び出し、一瞬で衛兵六人の意識を刈り取る。


 六人の衛兵が倒れたところで、俺、クゥ、シュシュ、サシャ、リラも、ミア、ピピのもとに向かった。


 守る者がいなくなった扉を、俺は蹴破けやぶる。


 ブロッセン王は先ほどと変わらず、奥にある椅子に鎮座ちんざしていた。


 俺たちの姿を見て、ブロッセン王がガタッと立ち上がる。


「貴様ら! いつの間に……!!」


 ブロッセン王と、謁見の間にいる衛兵たちが目を剥いた。動揺からか、ブロッセン王と衛兵たちは硬直している。


 俺はリラに叫んだ。


「リラ! いまのうちに『浄化』スキルを!」

「任せて!」


 リラがブロッセン王に手のひらを向けた。


「『浄化』!」


 ブロッセン王を、神々こうごうしい、純白の光が取り巻く。


 光がまばゆい輝きを放ち、


「ぬあぁああっ!!」


 ブロッセン王が、胸を押さえて悶絶した。


 発生したのは、精神操作の回復効果ではなく、モンスターへの攻撃効果。


 これでわかった。俺たちの前にいるブロッセン王は、偽物だ。


 俺はブロッセン王を指さす。


「お前はブロッセン王じゃない。魔公だな?」

「『浄化』スキルによる攻撃か……抜かったわ」


 ブロッセン王が、ニヤリと唇を歪める。


「いかにも。我は七魔公が一角『ダキニ』」

「本物のブロッセン王はどこだ」


 俺は、ブロッセン王、改め、ダキニを睨み付けた。


「ククッ」と、ダキニが喉を鳴らす。


「どこにもおらんよ。この世のどこにもな」


 俺は歯を軋らせた。


 考え得る限りで最悪のパターンだ! ブロッセン王は、ダキニに殺された!


「そん、な……お父様が……」

「リラ!」


 リラがガクリと崩れ落ちる。


 青ざめるリラを、サシャが慌てて支えた。


 いままで気丈に振る舞っていたけれど、やせ我慢だったんだろう。父親の死を知らされて、リラの精神が耐えられなくなったんだ。


 絶望に突き落とされたリラを、ダキニが楽しげに眺めている。


 どいつもこいつも……魔公は卑劣なやつばかりだ!


「我のもとまでたどり着いたことは褒めてやろう。だが、ここが貴様らの死に場所だ」


 開け放たれた扉から、衛兵たちがなだれ込んできた。


「まだこんなにも残っていたの!?」

「両手・両足の指でも数えきれません!」


 クゥとミアが顔を強張らせる。


 勝ち誇るように、ダキニが両腕を広げた。


「我のスキルは『支配しはい』! 対象人物の意識・肉体を無条件に支配し、我の修得している魔法を与えるスキルだ!」

「なっ!?」

「そ、そんな、スキル、が……!?」


 俺とシュシュが目を剥く。


『無条件の支配』と『魔法の給与』!? ブロセルクの住民が操られていたことや、彼らが高威力の魔法を扱っていたのは、『支配』スキルの仕業しわざか!!


 強力すぎるだろ! チートにもほどがある! そんなスキル反則だ!!


「貴様らに悪い知らせだ。ブロセルクの住民は、すべて我の支配下にある」


「わかるか?」と、ダキニが嗜虐的しぎゃくてき口端くちはしをつり上げた。


「貴様らは、我がはらのうちにいるも同然なのだよ」


 衛兵たちが、腰に佩いた剣を抜き、ジリジリと距離を詰めてくる。


 俺は長く息を吐き、ミスリルソードを抜き放った。


「なら、斬り開くまでだ」


 ミスリルソードの切っ先を、ダキニに向ける。


「ここは俺たちの死に場所じゃない――お前の死に場所だ、ダキニ!」

「抜かせ、小僧!」


 ダキニが腕を振った。


「やれ! 我が操り人形ども!! 我に刃向かう愚か者を血祭りにせよ!」

「「「「「「「「おおぉおおおぉぉぉおおおおぉぉおおぉぉぉぉおお!!」」」」」」」」


 衛兵たちが狂気の雄叫びを上げ、斬りかかってくる。


「クゥ! ピピ! 衛兵たちを食い止めてくれ! シュシュはリラの護衛!」

「「「はい!」」」

「ミアとサシャは、俺とともにダキニの相手だ!」

「「了解(です)!」」


 俺たちは駆けだした。


 ダキニを倒し、その企みに終止符を打つために。

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