ずっと踊らされていたが、俺に屈するつもりはない。――8

「ここは行かせない!」

「ピピたちが、相手」


 殺到する衛兵たち。


 振るわれる剣をピピが蹴り上げ、無手になった衛兵をクゥが投げ飛ばす。


血気けっき盛んな神獣どもだ……こちらもはじめようではないか!」


 段を下りてきたダキニが、こちらに手のひらを向けた。


「『ダークバレット』!」


 ダキニの周囲に、おびただしい数の、闇のたまが浮かぶ。


掃射そうしゃ!」


 闇の球が、漆黒の弾丸となって放たれた。さながら闇の弾幕だ。


「ここはオレに任せて!」


 対し、サシャが闇の弾幕に両手を向ける。


「『エクスプロージョン』!」


 闇の弾幕の進行方向に、小さな火球が生まれた。


 火球が、ジジッ、と火花を散らし――轟音とともにぜた。


 爆炎が闇の弾幕を相殺そうさいし、赤と黒の煙が発生する。


 そのときにはもう、俺とミアは地を蹴っていた。


 躊躇いなく煙のなかに踏み込み、駆け抜け、突破する。


 煙を突き破った俺とミアに、ダキニが瞠目した。


 俺とミアは、一直線にダキニに迫る。


 ダキニが舌打ちして、次なる魔法を行使した。


「『ビルドアップ』! 『エンチャントエッジ』!」


 強化されるダキニの身体能力。さらに、魔力がダキニの両腕に集まり、鋭い刃と化す。


「来い、小僧ども!」

「行くぞ、ダキニ!」


 俺がミスリルソードを、ミアが刀を袈裟懸けさがけに振るい、ダキニが、両腕にまとった魔力の刃で受け止めた。


 謁見の間に剣戟けんげき音が響き渡る。


「ぐぅ……っ」


 ダキニが顔をしかめた。


 俺は手応えを感じる。


 おそらく、ダキニは魔法戦に特化した魔公なのだろう。扱う魔法は強力だが、身体能力はそれほど高くない。


 押し勝てる!


「一気に行くよ、ミア!」

「はい!」


 俺とミアは、ミスリルソードと刀を乱舞させる。


 宙を埋め尽くす無数の剣跡けんせき


 剣戟が作り出す銀光の嵐。


「ぬ……っ! ぐ、おぉ……っ!!」


 俺とミアの猛攻をしのぐのに、ダキニは精一杯だ。


「サシャ!」

「うん!」


 そこに加わったサシャが、ダキニの斜め後ろから、剛拳ごうけんを放った。


「――っ! 『エナジーバリア』!」


 咄嗟にダキニが防御魔法を用いる。


 青白い障壁しょうへきが、サシャの拳を止めた。


 だが、俺たちの攻勢は止まらない。


 ミスリルソードが、刀が、拳が、絶え間なくダキニを襲う。


「ちぃっ! 『ウインド』!」


 たまらずといった様子で、ダキニが風魔法を行使した。


 巻き起こった風が、ダキニの体を宙に浮かせる。


 猛攻から抜けだしたダキニが、俺たちから距離を置いて着地した。


「やりよる、やりよる。それでこそ張り合いがあるというものよ!」


 ダキニが突っ込んできた。


 振るわれる魔力の刃を俺とミアが受け、フリーのサシャが拳を叩き込む。


 再びエナジーバリアで防がれるが、問題ない。速度も威力も手数も、圧倒的にこちらが上だ。


 ヴリコラカスより、デュラハンより、ドッペルゲンガーより、ダキニは明らかに弱い。


 このまま畳みかければ、勝てる!


「「「はあぁああああああああっ!!」」」


 攻める。攻める攻める攻める攻める攻め続ける!


 俺は一心不乱にミスリルソードを振るった。


 形勢が優位になっていく。


 勝利が近づいていく。


 ――――ちょっと待て。


 そんななか、俺は引っかかりを覚えた。

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