何度となく絶望に叩き落とされたが、何度でも立ち上がりたい。――16

 メアリさんの瞳に、あたしを責める色はなかった。


 それなのに、あたしの胸はズキズキと痛んで仕方ない。


 メアリさんの目を見ていられなくて、あたしは再びうつむく。


「……いいじゃないですか、あたしが立ち上がらなくても」


 ズキン


「シルバが戦ってくれるなら、それでいいじゃないですか」


 ズキン


「もう、あたしは、ひどい思いなんてしたくないんです」


 そうよ。シルバが立ち上がってくれたのよ? あたしが立ち上がらなくても、シルバが戦ってくれるのよ?


 もうわかったの。あたしは『主人公』じゃないって。『この世界の主人公』は、きっとシルバなんだって。


 だったら、それでいいじゃない。世界を救うのは『主人公』に任せましょう? 『モブ』はモブらしく、助けられるのを待っていればいいのよ。そのほうが賢いでしょう?


 だから――


 ズキン!


 お願いだから治まってよ!! 胸が痛くて堪らないの!! これ以上、傷付けないで!! あたしの心を乱さないで!!


 胸元を握りしめ、顔をクシャクシャにして、あたしはボロボロと涙をこぼす。


「そうですか……それも、ひとつの選択ですね」


 そんなあたしに、メアリさんは変わらず、静かな声で尋ねてきた。


「ですが、その選択をとって、あなたは、あなたを許せるのですか?」

「あたしが、あたしを?」

「いま立ち上がらなかったことを、あなたは後悔しませんか?」


 あたしはハッとした。


 もし、いまのあたしを、未来のあたしが見たら、


 もし、いまのあたしを、過去のあたしが見たら、


 どう思うだろうか?


 未来のあたしは言うだろう。


「仕方なかったのよ、あのとき、あたしにできることはなかったんだから」


 そんな言い訳を。


 過去のあたしは言うだろう。


「なにをうつむいてるの? あなたは『主人公』でしょ? とっとと立ち上がりなさい!」


 そんな一喝いっかつを。


 未来のあたしはそれでいいの? 『主人公』に依存いそんした、負け犬みたいに言い訳を並べるあたしで。


 過去のあたしに胸を張れるの? 『主人公』であることを諦め、ハウトの村人たちのように、ただ逃げているだけのあたしが。


 そんなわけない。


 思い出しなさい、エリス。あなたが憧れた『あの主人公』は、こんなところで立ち止まる? あなたが憧れた『あの主人公』は、うつむいたまま終わった?


 違うでしょう!?


 だったら立ち上がりなさい!! 甘えを捨てなさい!! 傍観者のままでいるなんて、絶対に許さない!!


 あたしは歯を食いしばり、うつむけていた顔を上げた。


 膝に力を入れる。地面についていた手を離す。


「『この世界の主人公』は、あたしじゃないのかもしれない。あたしは、ただの『モブ』に過ぎないのかもしれない」


 だけど、これだけはゆずれない。




「『あたしの人生の主人公』は、あたしだ!!」




 あたしは立ち上がった。

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