何度となく絶望に叩き落とされたが、何度でも立ち上がりたい。――17

 体が重い。


 視界が揺れる。


 足下がおぼつかない。


 こんな状態じゃ、まともに剣なんて振れない。


 それがどうした!? 上手く動けないなら頭を使え! 決して諦めるな! そのために立ち上がったんだろう!?


「しぶてぇなぁ。大好きだぜ、そういうやつはよぉ」


 ヴリコラカスの言葉がグワングワン響く。


「だが、そろそろくたばっとけ」


 ヴリコラカスが飛び出した。俺にトドメを刺すつもりだ。


「させません!!」


 ミアが俺を庇うように前に立つ。


 満身創痍まんしんそういになりながら、それでも諦めず、ヴリコラカスに立ち向かった。




「サンダーボルト!!」




 雷の槍が空から降ってきたのは、そのときだ。


 俺が驚愕するなか、雷槍がヴリコラカスに直撃する。


 モウモウと立つ土煙。


 やがて土煙が晴れる。


 ヴリコラカスは、まったくの無傷だった。


雑魚ざこがなにでしゃばってんだ?」


 苛立いらだちに顔を歪め、ヴリコラカスが、雷槍の術者――立ち上がったエリスさんを睨みつける。


「オメェはお呼びじゃねぇんだよ。魔人如きに手こずる雑魚が、俺様の楽しみを邪魔してんじゃねぇ」

「力不足だってことは、あたしが一番わかっているわよ」


 エリスさんの膝はガクガクと震えている。


 それでもエリスさんは、ヴリコラカスの視線を真っ向から受け止めた。


「けどね! もう決めたのよ! うつむいたまま終わらないって! 最後まで足掻くって!!」


 エリスさんが咆える。


「あたしはあんたが怖いわ、ヴリコラカス! いまからあんたと戦うと思うだけで、震えが止まらないわよ!」


 それでも!


「あたしが一番怖いのはね! なにもしないで諦めることなのよ!!」


 決然けつぜんと言い切ったエリスさんの体が、金色こんじきに輝く。


「『聖者』スキル、発動!!」


 同時、俺の体にまとわりついていた重さが和らいだ。


 味方の能力値を三割上昇させる、『聖者』スキルの恩恵だ。


「ちっ! そいつか」


 ヴリコラカスが忌ま忌ましげに舌打ちする。


『聖者』スキルはモンスターの能力値を三割減少させるのだから、当然だろう。


「よっぽど殺されてぇようだな! お望みどおり、ズタボロにしてやるよ!!」


 ヴリコラカスが鬼の形相で叫び、エリスさん目がけて駆けだした。


 エリスさんの隣には、メアリさんもいる。


 ヴリコラカスを行かせたら、ふたりとも殺されてしまう。


 考えるよりも先に、体が動いた。


「行かせるかぁああああああああああ!!」


 手にしていたミスリルソードを思いっ切り投げつける。


 全力で投擲とうてきしたミスリルソードが、ヴリコラカスの背中に突き刺さった。


「ぐぉっ!?」

「エリスさんもメアリさんも死なせない! お前の相手は俺だろう!!」

「テメェ……」


 ギリギリと歯軋はぎしりをするヴリコラカスの双眸は、憤怒ふんぬに血走っていた。


「死に損ないがほざいてんじゃねぇ!! 得物もねぇテメェなんざ相手にもならねぇぞ! 瞬殺してやるよ!!」


 再び突っ込んできたヴリコラカスの前に、ミアが立ちはだかる。


「しつけぇな、クソが!!」

「褒め言葉として受けとりましょう! 泥臭かろうとみっともなかろうと、最後まであなたに食らいついてみせます!!」


 ボロボロの体を酷使して、ミアが刀を振るう。


 諦めていない。エリスさんも、ミアも、絶望的なまでの暴力をの当たりにして、それでも抗っている。


「どけぇええええええええええええええええ!!」

「きゃあぁあああああああああっ!!」


 だが、ミアの体は限界だった。


 横薙ぎに振るわれたヴリコラカスの右腕に、ミアが吹き飛ばされる。


 もうヴリコラカスを阻むものはない。


「トドメ刺してやる! 今度こそ、確実になぁああああああああああ!!」


 ヴリコラカスが左の貫手を放った。


「シルバさま!!」

「シルバ!!」


 ミアとエリスさんが悲鳴を上げる。


 負けて堪るか!! エリスさんが立ち上がった! ミアが立ち向かった! 誰も諦めていない! 誰もが足掻いている! 歯を食いしばって戦っている! だから――!!


 貫手が迫る。


 死がそこまで来ている。


 しかし、俺は目をらさない。決意も揺るがない。


 諦めない! どこまでも足掻く! 勝つ! 必ず、勝つ!!




 瞬間、視界がスローモーションになった。

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