何度となく絶望に叩き落とされたが、何度でも立ち上がりたい。――15

 漆黒の砲弾が炸裂する。


 シルバが吐いた血が飛び散る。


 吹き飛ばされたシルバが倒れ伏す。


「シルバさま!? シルバさま!!」


 ミアがシルバに駆けより、青ざめた顔で何度も呼びかける。


 あたしはその光景を眺め、絶望する。


 終わった……。


 ミアひとりではヴリコラカスに敵わない。


 フランチェッカさんに阻まれて、クゥはヘルプに向かえない。


 ピピとシュシュは加勢できるかもしれないが、その場合、ハウトの村人たちを守る者がいなくなり、結果として、『魂喰らい』スキルによってヴリコラカスがさらに強くなってしまう。


 詰みだ。


 シルバが敗れたいま、勝ち目は完全になくなった。


 あたしは項垂うなだれる。


 シルバも、クゥも、ミアも、ピピも、シュシュも、ハウトの村人たちも、あたしも、


 みんなみんなみんな、殺されてしまうんだ。


 ザリ……ッ


 音がした。


 地面に爪を立てるような、もがきながらなにかをつかもうとするような、あらがいの音。


 あたしは顔を跳ね上げる。


「……なんで?」


 思わず呟いた。


「なんで立てるの? シルバ」


 傷だらけの体で、


 震える脚で、


 血みどろになりながら、


 それでも瞳に火を灯し、


 シルバが、立ち上がっていたからだ。


「倒れてなんて……いられないだろ……」


 あたしの呟きは、シルバに届いていたらしい。


 肩で息をし、時折ときおり咳きこみながら、シルバが答える。


「クゥが、フランチェッカさんを止めてくれている。ミアが、まだ戦おうとしてくれている。ピピが、魔獣を倒すために飛び回ってくれている。シュシュが、ハウトの村人たちを守るために踏ん張ってくれている――みんなが、みんなにできることを精一杯やってくれている」


 なのに、


「俺だけが、どうして諦められるって言うんだ!!」


 絶望に拳を向けるように咆えて、シルバがミスリルソードを構えた。


 切っ先がカタカタと震え、体はヨロヨロと揺れている。


 一目でわかった。ヴリコラカスと戦える状態じゃないことくらい。


 無駄だ。徒労とろうだ。悪あがきでしかない。


 ああ……それなのに、どうしてこんなにも、きらめいて見えるのだろう? どうしてこんなにも、心を揺さぶられるのだろう?


 どうして、胸をきむしりたいくらい、羨ましいと思ってしまうんだろう?


「……どうして、あなたは、そんなにも強いの?」


 ポツリと疑問がこぼれ落ちる。


「諦めないと、決められているからですよ」


 あたしの問いに、答える声がした。


「メアリさん……」


 戦場の風に、ブラウンの髪を踊らせるメアリさんが、あたしの隣に立っていた。


「シルバさんは幾度いくどとなく絶望を味わってきました。Fランクスキルの発現により夢が破れ、魔公ドッペルゲンガーとの戦いで仲間をなぶられ、魔公デュラハンにシュシュさんを奪われ、何度も何度もくじけてきたのです」


 けれど、


「そのたびに、シルバさんは立ち上がりました。ときに仲間に支えられて、ときに仲間を支えるために」


 メアリさんは、真っ直ぐシルバを見つめながら続ける。


「わたしは思うのです。なにごとをも打ち砕く力だけが『強さ』ではない。どん底から立ち上がる意志も、『強さ』と呼べるのではないかと」

「どうして、ここに?」

「『預言』がくだったのです。『救世主の戦いを見届けなさい』と。きっとそれが、わたしの責任なのでしょう」


 そこまで言って、メアリさんがあたしに視線を向けた。


 静かな声で、メアリさんがあたしに訊く。


「あなたは、そのままでいいのですか?」

「……え?」

「立ち上がらなくても、いいのですか?」

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