何度となく絶望に叩き落とされたが、何度でも立ち上がりたい。――10

 俺の指示を聞いたクゥとミアは、即座に行動した。


 クゥが両手を地面につく。


 クゥの体が膨れ上がった。神獣形態への移行だ。


 神獣フェンリルとなったクゥが咆哮ほうこうし、フランチェッカさん目がけて突撃する。


 ミアもまた、クゥと同じようにフランチェッカさんへと駆けだした。


「止めなさい!」


 フランチェッカさんが叫び、ダークナイトとアサシンが、ふたりを止めようと集まってくる。


「ここです!」


 ミアが動いた。


 両手に握っていた刀を手放し、『武具創造』スキルによって、自分の体が隠れるほど巨大な盾を作り出す。


 盾の取っ手を両手で握り、方向転換。新たにミアが目指すのは、俺とヴリコラカスの戦場だ。


「はあぁああああああああああっ!!」


 進路上にいるダークナイトとアサシンを跳ね飛ばしながら、ミアが疾走する。


 フランチェッカさんが目を剥いた。


「戦場を二分するつもりですか!?」


 その通りだ。


 いま、俺たちが不利に陥っているのは、俺 v.s ヴリコラカス、クゥ・ミア v.s フランチェッカさん・ダークナイト・アサシンの構図になっているからだ。


 ヴリコラカスは俺よりもはるかに強いため、フランチェッカさんがクゥとミアの足止めさえすれば、相手は勝利をつかむことができる。


 ならば、その構図を変えてしまえばいい。


 格上のヴリコラカスには、俺とミアがタッグで挑む。フランチェッカさん・ダークナイト・アサシンの相手はクゥひとりになるが、神獣であるクゥならば問題ないだろう。


 とは言え、フランチェッカさんは、俺とヴリコラカスの一対一の構図を保とうと、ミアの妨害をしていた。簡単には、こちらが望む構図にはさせてくれないだろう。


 だから俺は、クゥとミアに、フランチェッカさんへの突撃を指示したんだ。


 神獣二体クゥとミアに攻められれば、フランチェッカさんはひとたまりもない。必ず、ダークナイトとアサシンに応援を要請する。


 ミアが俺に加勢できないでいたのは、ダークナイトとアサシンが、『ミアの妨害』に専念していたから。


 応援を要請されたことで、ダークナイトとアサシンは、『ミアの妨害』に向けていた意識を、『フランチェッカさんを守ること』にもかなければならなくなった。


 すなわち、ミアがダークナイトとアサシンの妨害を、突破できるようになったってことだ。


「させません!」


 俺の狙いを悟ったフランチェッカさんが、ミアの背中に杖を向ける。


「それはこっちの台詞だよ!」


 フランチェッカさんが魔法を用いるより早く、クゥがアイスニードルを放った。


「くっ!」と悔しげにうめき、フランチェッカさんは魔法の発動をキャンセルし、壇上から飛び降りる。


 クゥのアイスニードルが、壇を端微塵ぱみじんに吹き飛ばした。


「ご主人さまとミアに手出しはさせない! お前の相手はボクだ!」

「……難儀なんぎなものですね」


 フランチェッカさんが眉をひそめた。





 クゥとフランチェッカさんが激闘をはじめるかたわら、ミアも使命を果たしていた。


「参ります!」


 ダークナイトとアサシンを振り切ったミアが、構えていた盾を放り捨て、『武具創造』スキルによって、もう一度、二振りの刀を作り出す。


「はあぁああああああああっ!!」


 刀を手にしたミアが、速度をさらに上げ、ヴリコラカスに斬りかかった。


 さながら疾風しっぷうそのものだ。


「ちっ!」


 舌打ちをして、ヴリコラカスが飛び退く。


 剣戟けんげきを回避されたが、ミアは深追いしなかった。俺が息を整える時間が必要と判断したからだろう。ありがたい限りだ。


 ヴリコラカスとの一対一で消耗していた俺は、安堵あんどの息をつく。


「助かったよ、ミア」

「お安いご用です!」


 ミアの笑顔が心強い。


 額に浮いた汗を拭い、俺は深呼吸する。


 改めて気を引き締め、ヴリコラカスにミスリルソードを向けた。


「さあ、第二ラウンドだ」

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