何度となく絶望に叩き落とされたが、何度でも立ち上がりたい。――9

「俺様を忘れてんじゃねぇよ!」


 思考していた俺に、ヴリコラカスが飛びかかってきた。


 右手の爪が、俺を引き裂こうと振るわれる。


 させるか!


 ヴリコラカスの動きに合わせ、俺はミスリルソードを薙いだ。


 カウンターで腕を断ち斬ってやる!


 しかし、俺の思惑おもわくは破られた。


 ミスリルソードが空を切る。刃が届く寸前で、ヴリコラカスが右腕を引いたからだ。


「なっ!?」

「フェイントだ」


 瞠目する俺に、ヴリコラカスがニヤリと笑う。


 引いた右腕に変わり、ヴリコラカスが左フックを見舞ってきた。


「くっ!」


 ギリギリで俺は飛び退く。


 ヴリコラカスの猛攻は終わらない。


 左フックの勢いを止めず、体を時計回りに回転させ、ヴリコラカスが右の後ろ回し蹴りを放ってきた。


 腕よりも脚のほうがリーチがある。必然、ヴリコラカスの蹴りは俺に届く。


 そして、俺は宙にいるため、回避行動がとれない。


 判断。


 即決。


 俺はミスリルソードを盾のように構え、ヴリコラカスの後ろ回し蹴りを防御する。


 ヴリコラカスの右脚が蹴り込まれた。


 ミスリルソードがたわむほどの強烈な圧力。


 砕けんばかりに歯を噛みしめ、俺はミスリルソードが押し込まれないようこらえ――吹き飛ばされた。


 まるで自分が砲弾になった気分だ。猛烈な速度で景色が過ぎ去っていく。


 このまま地面に叩きつけられたらタダじゃすまない!


 俺は近づいてくる地面を左手で弾いて宙返り。体勢を整えて着地する。


 ガリガリと地面を削りながら速度を殺し――五〇メートルほど下がったところで、ようやく止まった。


 腕がしびれ、膝が震える。ヴリコラカスの膂力りょりょくは凄まじいの一言だ。


 このわずかな攻防だけで、俺の息は上がっていた。


「やるじゃねぇか、いまのを耐えるなんてよ」


 ヴリコラカスが、くくっ、と喉を鳴らす。


「いいねぇ、もっと楽しませてくれよ!」


 獰猛どうもうに牙を剥き、再びヴリコラカスが突っ込んできた。


 完全に戦闘狂バトルジャンキーだ。


「シルバさま! いま加勢します!」


 俺の不利を察し、ミアが駆けよってくる。


 そのミアを阻む、三体のダークナイト。


「どきなさい!!」


 鬼神の如き形相ぎょうそうで、ミアが二刀を乱舞させた。


 盾のダークナイトがバラバラに刻まれる。


 が、バラバラにされたダークナイトの背後からアサシンが現れた。


 ミアが息をのみ、急ブレーキを踏む。


 アサシンがミアに飛び込んだ。


「後退して、ミア!」


 行く手を遮られたミアに、クゥが呼びかける。


 反応したミアがバックステップを踏み、


「『アイスブロック』!」


 クゥが作り出した、氷山ほどもある氷塊が、密集していたダークナイトとアサシンを押し潰した。


 三体のダークナイトと一体のアサシンが魔石になる。


 だが、


「ご主人さまに、」

「近づけません!」


 そう。ミアもクゥも、ヴリコラカスと戦う俺の援護に向かえずにいた。おそらく、フランチェッカさんの作戦だろう。


 結果、俺はヴリコラカスとの一対一をいられる。


「どうしたどうした!! オメェは魔公を二体もったんだろぉが!?」

「ぐぅ……っ」

「マジでやらねぇと死んじまうぞ!!」


 爪が、拳が、蹴撃しゅうげきが――ヴリコラカスの攻撃が、濁流だくりゅうの如く押しよせる。


 俺の能力値はクゥ並になっているが、魔公には遠く及ばない。しのぐだけで精一杯だ。


 このままじゃ、確実に負ける!


『クゥ、ミア――』


 危機感を抱いた俺は、ヴリコラカスの猛攻をなんとかさばきながら、クゥとミアに念話で指示を送る。


『『了解(です)!』』

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