何度となく絶望に叩き落とされたが、何度でも立ち上がりたい。――8

「『ラピッドレイ』」


 真っ先に動いたのはフランチェッカさんだった。


 フランチェッカさんの構える杖の先から、無数の光線が射出される。


 光魔法! フランチェッカさんは魔法使いタイプか!


「クゥ!」

「任せて!」


 呼びかけると、俺の意図いとを察したクゥが、右手を突き出した。


 クゥの右手から放たれた『魔法無効』の揺らぎが、ラピッドレイをかき消す。


「ミア、行くよ!」

「はい!」


 ラピッドレイをやり過ごし、俺とミアはヴリコラカスに向かって走りだした。


 疾走しながらミスリルソードを振りかざし、ヴリコラカスに斬りかかる。


 そんな俺の前に、ロングソードを携えたダークナイトが立ちはだかった。


「むっ!?」


 俺が振り下ろしたミスリルソードを、ダークナイトのロングソードが受け止める。


 ヴリコラカスをかばったダークナイトは一体だけじゃなかった。


 ミアの前にも、カイト・シールドを構えたダークナイトが現れ、ヴリコラカスへの接近をはばむ。


 だが、魔人程度に止められるミアじゃない。


「邪魔です!」


 目にもとまらぬ速度で二振りの刀を振るい、ミアがダークナイトの盾に無数の斬痕ざんこんを刻む。ダークナイトが斬り刻まれるのは時間の問題だろう。


 そして、いまの俺にも、ダークナイトは相手にならない。


「突破するよ、ミア!」

「了解です!」


 一歩分のバックステップで距離を確保。続いて一気にギアを上げ、ダークナイトを真一文字に斬りつけようとした――そのとき。


「ご主人さま! ミア! 後ろ!」


 クゥが切迫した声を張り上げる。


 振り返ると、短剣を閃かせるアサシンがいた。


「「なっ!?」」


 俺とミアは目を剥く。


『認識阻害』スキルを用いて忍び寄っていたのか!!


 二体のアサシンが、逆手さかてに持った短剣を振るう。狙いは、俺とミアの首だ。


 俺とミアは咄嗟に体を沈み込ませ、短剣を回避する。


 アサシンは止まらない。


 もう片方の短剣で、俺とミアを仕留しとめようと斬りかかってくる。


「『アイスニードル』!」


 振りかぶられたアサシンの腕を、クゥが放った氷槍ひょうそうつらぬいた。


「ナイス!」

「クゥさん、ありがとうございます!」


 クゥの援護に感謝しながら、俺とミアはそれぞれの得物えものを振り抜く。


 二体のアサシンが、上半身と下半身に分断された。


「次はこっちの番だ!」

「はい!」


 再びダークナイトと正対。俺とミアは反撃に出る。


 俺とミアは同時に地を蹴った。


 瞬間、二体のダークナイトが左右に分かれる。


 その先に映ったのは、こちらに杖を向けるフランチェッカさん。


「――っ! 散開!!」

「ラピッドレイ」


 俺が叫んだのと、フランチェッカさんが光線を撃ち出したのは同時だった。


 俺とミアが左右に跳ぶ。


 直後、無数の光線が、俺とミアがいた場所を通過していった。


 なんとか間に合った……間一髪かんいっぱつだったな。


 俺は一息つき、相手の一連の攻め手を分析をする。


 ダークナイトがヴリコラカスの壁になり、俺とミアの意識を引きつける。


 俺とミアが気をとられたところでアサシンが奇襲。


 アサシンがやられ、再びダークナイトに向きなおったところで、影に隠れていたフランチェッカさんが、ラピッドレイで不意打ち。


 敵ながら見事な連携だ。


 まるで統率されたかのような動き……いや、実際に


 俺は推測を口にする。


「『使役』スキルですね」

「ええ」


 フランチェッカさんが頷いた。


「ダークナイトとアサシンは、わたくしが魔王さまからたまわったモンスター。わたくしの配下です」


『使役』スキルの成功率は極めて低い。魔人を『使役』できる確率は、宇宙が誕生する確率よりも低いだろう。


 しかし、あるじに対して好感を抱いていれば、『使役』スキルの成功率は上昇する。神獣たちクゥ、ミア、ピピ、シュシュがそのれいだ。


 おそらく、フランチェッカさんがダークナイトとアサシンを『使役』できたのは、同じ理屈だろう。


 ダークナイトとアサシンは、魔王からフランチェッカさんに授けられたモンスター。フランチェッカさんに対し、忠誠心を抱いていてもおかしくない。


 エリスさんがサンダーボルトを用いた際、ダークナイトたちは息の合った動きで回避した。


 あれも『使役』スキルの賜物たまものだろう。付随効果ふずいこうかである『意思疎通』によって、フランチェッカさんが指示を出していたんだ。

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