何度となく絶望に叩き落とされたが、何度でも立ち上がりたい。――11

「せぁあああああああっ!!」


 ミスリルソードを真一文字に振るう。


 ヴリコラカスはバックステップで刃を避け、右の貫手ぬきてで反撃してきた。


「鮮血まき散らして死ねや!」

御免蒙ごめんこうむる!」


 俺は右足を軸にしてスピン。


 ヴリコラカスの貫手を紙一重で回避し、袈裟斬けさぎりへと繋げる。


 ヴリコラカスは素早く反応し、右に跳んで剣戟の範囲から逃れた。


「ミア!」

「はい!」


 だが、ミアが先回りしていた。


 ヴリコラカスの回避方向を予測していたんだ。


「はぁああああああああっ!!」

「ぬぅっ!」


 残像すら生む速度で振るわれる刀に、さしものヴリコラカスも堪らない様子だった。


 斬撃の乱舞をクロスした両腕で防御し、ヴリコラカスが飛び退く。


 防御したとは言え、ミアの剣戟を受けてただで済むはずがない。ヴリコラカスの両腕には、無数の赤い線が走っていた。


 いける!


 俺はグッと拳を握った。


 ヴリコラカスの膂力は想像を絶する。いままで戦ってきた二体の魔公よりも上だろう。


 しかし、防御面はそれほどではない。ドッペルゲンガーよりはすぐれているが、デュラハンには劣るといったところだ。


 それに、俺自身が、ドッペルゲンガー、デュラハンと戦ったときより成長している。明らかな戦力アップだ。


 実際、全員で挑まなければ歯が立たなかった魔公相手に、今回はミアとの二人掛かりで押せている。


 このまま攻めろ! 攻め続ければ勝てる!


「一気にいこう!」

「わかりました!」


 勝利を確信した俺は、ミアとともにヴリコラカスに躍りかかった。


「「はぁああああああああっ!!」」


 ミアが二振りの刀を縦横無尽に閃かせ、その隙間を補うように、俺がミスリルソードを振るう。


 右、左上、下、右下、突き、左上、上、左、左!!


「ちぃっ!」


 息もつかせない斬撃のラッシュに、ヴリコラカスは顔を歪めた。


 両手で剣の腹を叩いていなしているが、完全に捌ききれる数じゃない。ヴリコラカスの刀傷とうしょうは確実に増えていく。


 押せ、押せ、押せ、押せ、押し切れ!!


 俺とミアは、それぞれが出しる最高速度で刃を振るった。


 皮と肉を裂かれ、ヴリコラカスの血が飛び散る。灰色の毛並みは、いまや血塗ちまみれになっていた。


 それでもヴリコラカスは、ひどく楽しそうに口端くちはしをつり上げる。


「いいぜ、オメェら! 想像以上だ!!」


 俺は怪訝けげんを感じた。


 なんだ、この余裕は?


 どう考えてもヴリコラカスは劣勢だ。俺とミアの連携についてこられていないし、息も上がっている。


 なのに、なぜ笑える? 戦闘狂の一言で片付けられるとは思えないぞ?


 なにかイヤな予感がする。


 ヴリコラカスを圧倒しながらも、俺は胸騒ぎを覚えていた。


「楽しもうぜ! もっともっともっとよぉ!!」


 残念なことに、俺の予感は当たってしまった。


 いままで捌ききれなかった剣戟に、ヴリコラカスが対応しはじめたんだ。


「「なっ!?」」


 俺とミアは目を剥いた。


 依然、俺とミアはトップスピードのままだ。それなのに、ヴリコラカスが受ける傷は確実に減ってきている。


 しかも、傷の深さも浅くなっているようだ。


 ヴリコラカスの速さと防御力が、上がっている!?


 なぜ? と考え、俺はひとつの推測を立てた。


「スキルか!!」

「ご名答だ」


 俺とミアの連撃を捌きながら、ヴリコラカスが愉快げに笑う。


「『魂喰たましいぐらい』っつってな、死者の魂を吸収して能力値を上昇させるスキルだ」

「死者の魂、だと!?」


 ヴリコラカスの発した単語に、俺はハッとする。


「驚くこたぁねぇだろ? これだけ魔獣が集まってんだ。クズどものひとりやふたり、られてもおかしくねぇ」


 俺はギリッと歯をきしらせた。


 たしかに、ピピとシュシュがいても、守り切れないことはあるだろう。


 ハウトの村人たちから、犠牲者が出はじめているんだ。

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