事情も立場もいろいろあるが、彼女を救えないなら意味がない。――12

「フリード……どうしてここに?」

「貴様らでは戦いにならないことなどわかっていたからな」


「ふんっ」とフリードが鼻を鳴らす。


「冒険者を辞めたからといって独断行動は許さん! 貴様らに死なれれば、王国騎士団の責任問題となり、面子めんつが丸潰れだからな! そこで、仕方なく加勢にしにきてやったのだ、感謝しろ!」


 フリードが胸を反らし、偉そうに言い放った。


「相変わらず、フリードくんは素直じゃないね」

「シェイラさん?」


 ポカンと口を開ける俺の隣に、いつの間にかシェイラさんが立っていた。


 シェイラさんが肩をすくめ、やれやれと首を振る。


「本当はね? きみたちが出ていった直後、フリードくんが血相けっそうを変えて訴えてきたんだ――『ドッペルゲンガーの討伐の際、俺はとんでもない過ちを犯した。あの男シルバを見殺しにしたら、俺は一生クズのままだ!』とね」

「だだだ団長!?」


 慌てふためくフリードを面白がるように、イタズラげな笑みを浮かべながら、シェイラさんが続ける。


「訴えを聞いた副団長・一番隊隊長・一番隊副隊長みんなも、フリードくんに賛同してね、もはや私では止めることができなかったんだよ」


 話の内容とは裏腹に、シェイラさんは清々すがすがしい表情をしていた。


「そうなれば、私が参戦しないわけにはいかない。戦場には指揮官が必要だからね」


 ウインクするシェイラさんに、俺は胸を打たれる。


「シェイラさん……フリード……」

「かかか勘違いするな! 俺は自分を変えるためにここに来ただけだ! 別に貴様を心配したわけではない!」

「はいはい、ツンデレツンデレ」

「団長は黙っていてくださいませんか!?」


 からかうシェイラさんと、顔を真っ赤にして反論するフリードに、こんな状況にもかかわらず、俺は「ぷっ」と吹き出してしまった。


「と、とにかく! 貴様らはデュラハンを討つことだけを考えろ!」


 ひとつ深呼吸して、フリードが真剣な眼差しを俺に向ける。


「貴様らがデュラハンに敵うかどうかが勝敗を決める。雑兵ぞうひょうどもは俺たちが引き受ける。必ず勝て。負けたら殺してやる」

「任せとけ」


 俺が不敵に笑うと、フリードは、ぷい、とそっぽを向いて、王国騎士と剣を交える冒険者に『魔剣技』を放つ。


「健闘を祈るよ」


 シェイラさんもまた、冒険者たちと戦う王国騎士団のもとへ向かった。


「皆殺しだ」


 冒険者たちと交戦する王国騎士団を眺めていたデュラハンは、瓦礫の山を一歩一歩下りながら、うなるように言った。


「愚かな人族どもがつけ上がりおって……我の邪魔をするなど、おこがましいにもほどがある! まずは貴様らだ、小僧! 無様ぶざまに負けて死ね!!」


 咆哮ほうこうし、大剣を掲げながらデュラハンが突撃してくる。


 俺は即座に指示を出した。


「ミアは俺と一緒に前衛! クゥとピピは魔法でサポートしてくれ!」

「「「了解!」」」

「シュシュは……」


 言いかけて、俺は気付く。


 迫ってくるデュラハンを見ながら、シュシュが顔を青ざめ、カタカタと震えている。


 そうだ。シュシュはデュラハンに対して、強烈なトラウマがあるんだった。


 正直なところ、いまはひとりでも戦力が欲しい場面だ。それでも、怯えるシュシュを無理矢理戦わせられるほど、俺は冷淡にはなれなかった。


 司令塔として、失格だな。


 苦笑して、俺はシュシュに微笑みかける。


「シュシュに無理はさせられないな」

「え? け、けど……」

「大丈夫。デュラハンは俺たちが必ず倒す。だから、待っていてくれ」


 俺の指示に戸惑ったようだが、シュシュはおずおずとうなずき、俺たちから距離をとった。


 クゥがキッと眉を上げ、ミアが『武具創造』スキルで二本の刀を生み出し、ピピが翼をはためかせて宙に浮かぶ。


 俺はミスリルソードを中段に構えた。


「さあ、ここが正念場だ! 行くよ、みんな!」

「うん!」

「はい!」

「ん!」


 デュラハンとの決戦が最終局面を迎える。

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