事情も立場もいろいろあるが、彼女を救えないなら意味がない。――9

「大丈夫、ピピ?」

「平気」


 平気なわけがない。ピピは、『報復』スキルのダメージ返しに加え、シュシュの尻尾の一撃まで食らっているんだ。相当消耗しょうもうしていることだろう。


 それでもピピは、口端をわずかに上げてみせた。きっと、俺を心配させないために。


「ピピ、『隷属』スキルに、勝った、よ!」

「ああ。ありがとう、ピピ」


 ピピの強がりと、『隷属』スキルをはね除けてくれたことが、心の底から嬉しい。


 俺はミスリルソードを持っていないほうの腕で、ピピを抱きしめた。


随分ずいぶんとコケにしてくれたな……!!」


 絆を深め合う俺とピピを目にして、尻餅をついていたデュラハンが、再びシュシュに跨がった。


「許さん……叩き斬ってやるぞ、貴様らぁああああああああああっ!!」


 憤怒ふんぬが込められたデュラハンの叫びに、三人の頬を汗が伝う。


「ピピは無事だったけど、ボクたちは不利なまんまだよ!」

「シュシュさんの解放に失敗しましたからね。状況は変わっていません」

「フリダシに、戻った」

「いや」


 悔しそうに顔をしかめる三人に、俺は静かに言った。


「突破口は見つかった。俺たちはシュシュを解放できる」


 俺は三人に、シュシュを解放する手段と、そこまでの道筋を説明する。


「でも、それじゃあ、ご主人さまが危ないよ!」

「無事で済むとは思えません!」

「心配、だよ」


 説明を聞いた三人が、不安そうな目を俺に向けた。


 俺は三人の頭を撫でながら、優しく言い聞かせる。


「大丈夫だよ。俺は絶対にシュシュを助けて戻ってくる。決して、みんなを置いていかないから」

「ご主人さま……」

「シルバさま……」

「パパ……」


 三人はなお、眉尻を下げた心配そうな表情をしていたが、互いに視線を交わしたのち、意を決したように力強く頷いた。


「わかった! ボクも全力でサポートする!」

「ピピさん、かなめとなるのはあなたです。シルバさまをお願いします」

「ん。ミアも、タイミング、逃さないで」

「なにを企んでいるかは知らぬが、貴様らのさく如きが我に通じると思うな!!」


 心をひとつにした俺たちに、デュラハンが大剣を振りかざし、突っ込んでくる。


 俺たちはデュラハンの斬撃から逃れつつ、俺とピピ、クゥとミアの二手に分かれた。


「ピピ、頼む!」

「ん!」


 三度みたび神獣形態となったピピに俺は跨がる。


 飛翔したピピとともに、俺は一直線にデュラハンへと向かった。


小賢こざかしい!」


 デュラハンが俺たちに大剣の切っ先を向け、それを合図としたように、シュシュのアクアショットが放たれた。


 無数の水弾が、壁の如く俺たちに迫る。


『クゥ、「魔法無効」!』

『任せて!』


 対し、俺はクゥに念話で指示を送った。


 クゥが『魔法無効』スキルを発動し、大気の揺らぎが、水弾をひとつ残らずかき消す。


 クリアになった俺たちの視界に、巨大な尻尾が映った。


はなからこちらが本命だ! 叩き落としてくれるわ!」


 デュラハンが咆える。


 クゥが『魔法無効』スキルを発動することは想定の範囲内だったらしい。どうやらデュラハンは、アクアショットを目隠しに用い、シュシュの尻尾による不意打ちを狙ったようだ。


 だが、こちらとしても想定の範囲内だった。デュラハンに接近する以上、なんらかの迎撃がくるだろうと予想していたから。


 俺はピピの背中に立つ。


「行ってくる!」

「ん! パパ、気をつけて!」


 跳躍ちょうやく


 瞬時、ピピが身をひるがえし、シュシュの尻尾は誰もいない空間を薙いだ。


 夜空に跳びだした俺は、勢いそのままに、デュラハンのもとを目指す。


「特攻のつもりか、バカめ! スィームルグがいない貴様など、恐るるに足らん!」


 デュラハンが勝ち誇り、宙に放物線を描く俺へと目がけ、大剣の斬り上げを見舞ってきた。


 翼を持たない俺に、大剣は避けられない。


 だから、俺はピピに頼る。


『ピピ、援護!』

「『フォローウインド』!」


 ピピが起こした風が、俺の体を導く。


 落下軌道がCの字に歪み、俺は斬撃を避け、シュシュの額に降り立ち、ついにデュラハンと対峙たいじした。

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